iPhone 5G問題ついに決着 アップル・クアルコム和解のなぜ

文●石川温

2019年04月19日 16時00分

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 アップルとクアルコムは4月16日、スマホ向けモデムチップの知的財産を巡る訴訟で和解に達したと発表した。

 両社の衝突は2017年までさかのぼる。それまでアップルはクアルコム社製のモデムチップを採用していた。クアルコムはアップルに対し、モデムチップの代金に加え、それに伴う特許使用料についても請求を続けてきた。

 しかし請求額が膨大だったためか、2017年にアップルは「使用料が高すぎる」とクアルコムを提訴。一方、クアルコムは対抗措置としてアップルを知的財産権の侵害で訴えたのだ。業界関係者によれば「アップルが未払いの特許使用料は8000億円にもなる」という。

 そしてアップルは2016年から徐々にモデムチップの調達先をクアルコムからインテルに切り替え、昨年からはすべてインテル製にしてしまい、クアルコムを排除したのだった。

●クアルコム排除で5Gが問題に

 アップルとしては現行のiPhoneに対してはインテルがなんとかモデムチップを供給してくれていたため、事なきを得ていた。しかし厄介なのは、今年すでにアメリカや韓国でサービス開始されている5Gへの対応だ。

 インテルは5G対応に前向きで開発は進めていたようだが、いまだスマホ向けの5Gモデムチップを世間に発表できていない。

 一方、クアルコムは3Gのころからモデムチップやアプリケーションプロセッサーなどを開発し続けており、ケータイやスマホの通信に関する膨大な特許を取得している。

 5Gに関しても、2016年10月には「Snapdragon X50 5Gモデム」を発表。2018年12月には5Gモデムに対応した「Snapdragon 855」を公開。2019年2月には、サムスン電子やファーウェイなどから5G対応のスマホが続々と発表されたのだった。

 やはり2019年2月にバルセロナで開催された「MWC19」において、クアルコムの関係者が「5G ONLY ON Android」というキャッチコピーが書かれたTシャツを着て、自社の優位性をアピールしていたのが印象的であった。

 クアルコムとしては「5Gが動くのはクアルコムのチップを採用しているAndroidメーカーだけ。インテルと組んでいるアップルは5Gには対応できないだろう」という挑発めいたメッセージを業界関係者に訴求したかったようだ。

●インテルはモデム開発に難航

 今年、クアルコムのチップを採用したAndroidメーカーが続々と5Gスマホを投入する中、アップルは苦しい立場に追いやられていく。

 まず、インテルに5Gチップを開発してもらうのはいいのだが、製品化にこぎつけるには2020年にも間に合わないかもしれない状況にあった。単に5Gだけにつながるモデムチップを作るのはできるかもしれないが、2Gや3G、さらには4Gと連携しながら通信をするのが、とてつもなく難しいとされる。

 インテルにはそうした技術や特許は乏しいため、開発にかなり難航していたようだ。

 アップルとしてはいっそインテルと決別し、自社でモデムチップを開発するという選択肢もあった。そのためクアルコムの本社があるアメリカ・サンディエゴでも人材の採用活動をしていたようだが、ティム・クックCEOは「我々が自社開発しても3〜4年はかかるだろう」としていた。この業界で3〜4年、他社に遅れるというのは致命的なのは言うまでもない。

●助けをほのめかしたファーウェイ

 窮地に追いやられるアップルを見て、ファーウェイ創業者でもある任正非CEOが「アップルに対して、うちのモデムチップを供給してもいい」とメディアに対して発言したことは話題になった。

 確かにファーウェイはすでに5Gモデムチップの開発を手がけており、自社のスマホにも搭載しつつある。「iPhoneにファーウェイのモデムチップ」という可能性があったようにも見えたが、さすがにトランプ政権が「アメリカ市場から中国メーカーの通信機器を排除せよ」と言っている最中に、iPhoneにファーウェイモデルが搭載されるなんてことはありえない。

 ファーウェイとしてはアメリカ市場から冷遇されていることもあり、実現しないのは最初からわかっていながら「我々ならアップルを助けられるよ」と世間に訴え、アメリカに振り向いてほしかったのかもしれない。

●心配なのは完全分離プラン

 今回アップルとクアルコムが和解したことで、2019年秋のiPhoneは無理かもしれないが、2020年秋にはなんとか5G対応が間に合うことが考えられる。

 日本での5Gスタートは2020年春とされており、2020年秋には日本でも5Gに対応したiPhoneがお目見えすることが予想される。

 日本で4G、すなわちLTEが普及した背景には、2012年に4Gに対応したiPhone 5が登場し、ソフトバンクとKDDIが熾烈なLTEがネットワーク競争を展開。2013年にNTTドコモがiPhone 5sの取り扱いを開始し、3社のLTEネットワークで「どこが速いか、どこで使えるか」の競争が起きたことが契機だった。

 2020年に5G対応のiPhoneが登場すれば、日本でも一気に5Gエリアが拡大することだろう。ただし不安点を挙げるとするならば、今年から完全分離プランが導入され、3社で新製品のスマホが買いにくい状況になった点だ。

 5GのiPhoneが登場し、注目はされるものの、端末購入補助がなくなることで、5Gの普及が他国に比べて遅れる懸念も出てきそうだ。


筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。

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