CPU/GPUだけでなく「機械学習」に注力したプロセッサー戦略
半導体に目を向けると、使っているのは9月に発表された「iPad Air」と同じ「A14 Bionic」だ。メモリー搭載量やクロック周波数などは分からないが、とにかくアーキテクチャやCPUのコア数などは同じである。
このプロセッサーについて面白いのは、CPUやGPUといった部分のパフォーマンスアップは意外と小幅である、ということだ。元々「A12」「A13」はかなりハイエンドなチップであり、スマホ向けプロセッサー全体では高速。そこからの性能アップなら、まだまだ競争力は十二分にある。アップルが「自社比較」でなく「他社比較」に終始したのはそのためだろう。
一方で、5nmプロセスで作るA14 Bionicは、トランジスタ数はかなり増えている。そのほとんどは、マシンラーニング関連の処理高速化に費やされた。カメラから音声・画像認識にARまで、マシンラーニングの推論速度と消費電力の低さが求められるシーンはどんどん増えている。そこで、 そちらにトランジスタ資産をより大きく割り振り、スマホ上で求められる処理の高速化として実効性の高いところを目指したのだろう。
このやり方は、インテルが「第11世代Core iプロセッサー(通称Tigar Lake)」で採った方法論にも似ている、と思う。Tigar Lakeもマシンラーニング処理の高速化に力を入れたからだ。「汎用処理だけでなく、専用処理を高速化することが切り札」になる時代、とも言えるのではないか。
「Pro」の価値は「LiDAR」、しかもカメラ活用にあり
個人的に注目しているのはProシリーズに搭載された「LiDAR」だ。iPad Proにすでに入っているが、それがようやくメインストリームであるiPhoneにも来た。
LiDARといえばAR処理……というところなのだが、実際にはまず「カメラ」での利用が重要だ。iPad Proが出たとき、筆者は「あれがカメラ撮影に使われていないのはおかしい」と思っていた。案の定、2020年のメインディッシュとして残していたのだ。
アップルはまず「ピントが合うのが速くなる」という点をアピールしたが、それだけでは終わらないはずだ。空間の立体構造を把握できる、という特質は、いわゆる「ポートレートモード」の質向上に寄与するはずだ。また、アプリを作れば、「人だけを切り抜いて動画を重ねる」とか、「グリーンバックなしで、バーチャル背景の質を高める」ということもできるはず。意外と応用範囲が広いのだ。
そういう意味でも、「アプリ」による進化の可能性に、さらに期待したい。
西田 宗千佳
フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬 SAPプロジェクトの苦闘」(KADOKAWA)などがある。