5G(サブ6)を本気で使えるようにするため
ソフトバンクと東京科学大学が電波干渉に挑む!
5Gのモバイル通信向けとして割り当てられ、スマートフォンの高速大容量通信の実現に貢献している「サブ6」と呼ばれる周波数帯。だが、そのサブ6のうち携帯4社すべてに割り当てられている「3.7GHz帯」(3600~4100MHz)は、国際映像の中継などをする衛星通信と、一部周波数が重複しているという問題を抱えている。
それゆえ衛星と地上とで通信をする、「地球局」と呼ばれる設備に近いエリアでは、モバイル通信と衛星通信との電波が干渉して通信ができなくならないよう、3.7GHz帯を用いたモバイル通信の基地局を近くに設置しない、あるいは基地局からの電波出力を大幅に弱める必要があり、5Gの実力をフルに発揮できない状況が続いている。
基地局同士の距離は元々100kmとされていたため、首都圏であれば茨城県常陸大宮市にある地球局との干渉を避けるべく、東京都心のかなりのエリアで3.7GHz帯を有効活用できない状況にあった。その後、距離の制限が50kmにまで緩和されたことで首都圏での干渉影響は小さくなったが、それでもまだ埼玉県北部から茨城県にかけては、3.7GHz帯を有効活用できない状況にあるという。
しかも携帯4社のうち、3.7GHz帯以外の周波数帯を割り当てられているのはドコモだけなので、少なくとも3社は今後も衛星通信干渉の影響を受け、特定のエリアで高速大容量通信を活用できないことになる。そこでこの問題の解決に向けた研究を進めているのが、そのうちの1社となるソフトバンクと東京科学大学(旧・東京工業大学)だ。
実際、両者は2月21日、5G基地局と衛星通信地球局の下り回線の電波干渉を抑圧する「システム間連携与干渉キャンセラー」の屋外実証実験に成功したと発表。その実証の様子を報道陣に披露した。
これは衛星通信と携帯電話基地局の双方のシステムを連携することで、電波干渉を抑える仕組み。具体的にはまず、携帯電話基地局からスマートフォンなどの端末に送られる「5G信号」をネットワークの途中で分離し、一方を端末に、もう一方を「5Gレプリカ信号」として光ファイバーを通じて地球局のシステムに送る。
一方、地球局では衛星からの信号と5G信号が干渉した状態で信号を受信するのだが、もちろんこのままでは通信ができない。そこで地球局に送られた5Gレプリカ信号を、地球局に設置された「5G干渉信号キャンセラー」に入力。受信した信号から5Gレプリカ信号を基に干渉する信号を除去し、衛星からの信号だけを取り出すことで通信できるようにする。
ただ光通信と無線通信とでは信号が届く速度に違いがあり、何もしなければ無線通信で送られた5G信号が先に届いてしまう。そこで基地局側にあらかじめ遅延装置を導入し、5Gレプリカ信号が地球局に先に届くよう調整をしているとのこと。遅延といってもその速度は1ミリ秒の100~1000分の1程度と非常に小さく、実際の通信に影響を及ぼすことはないそうだ。
今回の実験では屋内から屋外へと場を変え
フィルタの導入によって基地局との距離が縮まった
実はこのシステムによる実験は2023年にも報道公開されているのだが、その際は屋内で、なおかつ電波を送るのに有線ケーブルを用いての実験だった。だが、今回は屋外で実際に電波を射出して実証実験を実施した点が大きな違いになる。
そしてもう1つ、大きな違いが性能の向上だ。以前は5Gレプリカ信号と、衛星と5Gが干渉した信号とで、それぞれ異なる装置を通過することから電波の波形に違いが生じ、干渉を完全に打ち消すことができないケースが生じていた。
そこで新たに「FIRフィルタ」という装置を入れて電波の波形を補正することにより、性能向上を図ったとのこと。以前の仕組みでは基地局と地球局までの距離を5km離す必要があったが、FIRフィルタの導入によって距離を1.5kmにまで近づけられるようになった。
では、実証実験はどのような形で実施されたのだろうか。実証場所となったのは東京科学大学の大岡山キャンパスにあるグランドで、グランド端の建物に衛星信号と、5Gの信号を出力するアンテナを設置。
その向かい側に地球局に見立てたアンテナを設置して電波を射出し、システムによって干渉した信号から衛星通信の信号だけを取り出せているかどうかを確認する形となる。なお、今回の実証では3.7GHz帯のうちソフトバンクに割り当てられている3.9GHz帯(3900~4000MHz)ではなく、3.3GHz帯を用いているとのことだ。
実際、システムをオフにした状態では電波干渉によって波形が乱れ、正しく通信できていない一方、システムをオンにすると衛星通信の波形だけを取り出していることが確認できた。
また、ライブカメラによる映像伝送デモも実施され、やはり何もしなければ電波干渉で通信できず映像が止まってしまうが、システムをオンにすることで衛星が正しく再生される様子が示された。
将来性は大いに感じたものの
まだ導入の手間やコストが合っていない
このシステムが5Gの衛星干渉問題解決に大きく貢献する技術となる可能性は大いに感じたが、一方で衛星通信事業者の視点からすると、システム導入の手間やコストがかかるわりに、導入するメリットが何もない。技術が確立されても衛星通信会社側が導入に「ノー」と言ってしまえば、活用も解決も進まないという問題を抱えている。
東京科学大学工学部 藤井・太田研究室の藤井輝也氏は、今回でいう衛星通信事業者のように、最初に電波が割り当てられた事業者による「一次利用」と、携帯電話事業者のように後から割り当てられた事業者による「二次利用」との壁は厚いと話す。それだけに藤井氏は、今回の技術をたたき台としてその壁を取り払い、事業者同士が協調して電波の有効利用につなげるための第一歩にしたいと話していた。