山谷剛史の「アジアIT小話」

日本から一番近いアフリカが中国・広州にあった デジタル中古市場の熱気がすごかった! (2/2)

文●山谷剛史 編集● ASCII

2025年02月24日 12時00分

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人気の中心は5000円程度の数年前の中古モデル
中国向けROMから、標準のAndroidに書き換えて売ってくれる

 ところで大沙頭の中古市場は、2000年代前半には当時銀パソと呼ばれたノートパソコンをはじめとした日本から流れ着いたパソコンが大量に置かれ、中国でも海賊版が人気だった「ときめきメモリアル」のイラストの壁紙、浜崎あゆみやモーニング娘。のMVが画面に表示されていた記憶がある。

 この時代にはアフリカンはおろか地元中国人の買い物客も少なかったが、10年ほどでアフリカンが集う中古スマートフォン市場となっていた。市場の様子は激変して不景気の今でも活気に満ち溢れている。

 中国メディアの大沙頭市場記事を見つけたので、より深く掘り下げよう。まず市場は中国南部の中古スマホの集積地となっている。アフリカンバイヤーは20代からいて、何年も中国で取引をした経験から中国語が流暢な人も少なくない。

中国・広州

各所で商談で活気に溢れている

 アフリカンバイヤーが注目する製品は中低価格帯のモデルだ。それも3、4年前に発売されたモデルが人気で、モデルやブランドの指定買いはないが、OPPOやシャオミ、vivoが人気という。

 南米や中東のバイヤーも少数ながらいて、彼らはもう少し新しくスペックの高いモデルを求めている。たとえば2019年発売の「OPPO A9」は人気だ。プロセッサーはMediaTek Helio P70で、カメラは1600万画素+200万画素。OPPO製品はカメラにAIを搭載していて綺麗な自撮りが可能だ。加えて電力供給が不安定な現地において、急速充電機能やバッテリーを最適化する機能を備えていることはものすごく重要だ。

 OPPO A9クラスの中古商品は、アリババの中古プラットフォーム「閑魚」では150~200元程度(3000~4000円、1元=約21円)で売られているが、これが大沙頭では280元になる。

 ただ、ECだと中国語の読み書きの交渉能力が必要になるし、詐欺が発生するので非漢字圏の外国人にはハードルが高い。他方、大沙頭では買えば、中国向けのカスタムROMではなく、海外で利用できる標準のAndroidを入れてくれて、輸出のための梱包もしてくれる。いろいろ便利なのだ。

 見た目は悪くなく、綺麗に撮れて、バッテリー対策もされていて、標準のAndroidが入っていて、そしてTecnoやInfinix(どちらも伝音)といった現地で見るブランドの新品より安い。最新のiPhoneだと、アフリカの人々の年収並みの価格となってしまって、とても買えないが、大沙頭で販売される数千円の中古Androidスマホは極めて現実的な解となるわけだ。

 ちなみに、アフリカ諸国でもiPhoneの人気が高いのは変わらない。なので、中古のリーズナブルなiPhoneは人気となる。使い勝手など基本的な部分は大きく変わらず、値段ははるかに安価なため、中所得層のユーザーの間で人気だという。

さまざまな地域から人が集まっている深圳より
広州なら広東料理&アフリカ料理を含めて、異世界感を堪能できる

 大沙頭市場の中古商品の供給だが、前述の通り集積地であり、店同士が連携して在庫を管理している(つまり自分の店にない在庫も取り寄せられる)が、一方で至急お金が必要な人が買い取り依頼にやってくる。

 この際の買取価格は、中国で大手の中古買取チェーン「愛回収」よりも少し高めに設定しているのが在庫を補充する秘訣だ。中国人はもう少し新しい製品を求めているので、愛回収や転転といった大手チェーンでは古い製品の買い取りは拒否されがち。でもこうしたバイヤーが求めているので古いモデルでも買い取るという。

 これだけ中国の中古スマホがアフリカで人気なのだから、中国人自らナイジェリアなどのアフリカ諸国に進出し、荒稼ぎしようという人間もいそうなもの。価格面・品質面で優位に立てて、中国で買い取ったスマホが2倍、3倍の価格で売れるだろうが、多くの国の情勢は不安定で、法外なみかじめ料を要求されるばかりか、いつ戦争が起きてもおかしくなく、海外進出計画が成功している例は多くないそうだ。

 となると当面は、広州の異世界的な大沙頭市場の盛り上がりは続きそうだ。広州は中国南部の広東省の中心都市で、香港と隣り合う深圳のその先だが、今は高速鉄道も複数あり、都市へのアクセスが便利になっている。

 深圳は他地域からエンジニアなどが集う移民の街で広東色は薄いが、広州は広東色が強く広東料理が充実し、おまけに地域限定でアフリカがそこにあり、ガチなアフリカ飯も食べることができて、異世界感が強い。興味がある人は足を運んでみてはいかがだろうか。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク

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