MWC Barcelona 2025レポート

KDDIは人手不足をAIで解消する! AIを活用したネットワーク運用の最前線

文●スピーディー末岡 編集●ASCII

2025年03月04日 18時00分

 KDDIはMWC Barcelona 2025に出展。AIを中心としたさまざまな展示を行なっているが、中でもブースの中心で展示されていた、グローバル展開しているデータセンター事業(Telehouse)の技術・運用ノウハウを活かしたAIネットワークの技術が注目を集めていた。災害時にAIによって生きてる基地局を探してトラフィックを調整したり、AIとの対話から花火やコンサートなどのイベントで混雑時にAIがネットワークを分散させたりと、これから徐々に実用化されていく技術だ(一部実用化済み)。

 そこで、KDDI 執行役員 コア技術統括本部 技術企画本部 副本部長の丸田 徹氏と、先端技術研究所 ネットワーク部門 オペレーショングループ グループリーダーの宮坂拓也氏に、これらの技術の仕組みや今後の展開などについて聞いた。

KDDI 執行役員 コア技術統括本部 技術企画本部 副本部長 丸田 徹氏(右)、先端技術研究所 ネットワーク部門 オペレーショングループ グループリーダーの宮坂拓也氏

ネットワーク業界の人材不足や高齢化対策
AIを使ってネットワーク運用の最適化を

 ネットワークにAIを導入することについては「将来的に技術者の人材不足が予想されているので、AIを活用してネットワーク運用を最適化します」と丸田氏。オペレーターの高齢化や人材不足が業界全体に影響を与えており、トラックドライバー不足の問題に近いものがあると言う。これに対処するためには専門知識を持つ人材を育成する必要があるが動きの早い業界だけにそれだけでは間に合わない。AI社会に向けてネットワークのトラフィックは増大する一方だ。

自然言語での対話でAIがネットワークを制御する

 この課題に対して、KDDIは「インテント(Network Intent)」という新しいアプローチを導入し、専門家でなくても問題解決ができる仕組みを目指していると宮坂氏は語る。これはAIとの対話から運用者の要求に応じたネットワークを構築・設定・管理するシステムで、運用者とAIとの自然言語での対話から、ネットワーク制御システムが理解可能なデータ記述言語(Network Intent)を自動生成する技術と、Network Intentから自律的にトラフィックを制御する技術で構成されている。この技術を使えば、熟練の技術者でなくてもネットワークの設定変更ができようになり、ヒューマンエラーを減らせるだけでなく、人手不足の環境下でも運用が可能だという。

こちらは災害支援のシステム

 丸田氏は「AIが前提のネットワーク運用を実現し、作業効率を30%程度向上させることを目標としています」とのこと。段階的な導入を計画しており、2025年には一部のIP系ルーターの制御にAIを採用する予定だそうだ。

 KDDIは花火大会などの大規模イベントにおいて、ネットワークの管理が重要であると考えており、日常的なケースだけでなく、災害時にも対応できるようなシステムを構築することが求められていると話す。特定のユースケースに対して約2週間で技術的な対応が可能であると説明し、今後は東京だけでなく他の地域でも展開していく意向を示した

 「今回のデモは花火大会ですが、日本での大規模イベント、たとえばコミケなどでもAIとの対話でベテランでなくてもネットワークの運用が可能になります」と宮坂氏。また、災害に関しては日本というお国柄、地震や水害などのデータはさまざまなパターンが用意されているが、今後、どんな災害が起こるかわからないためあらゆる想定を考えたいと丸田氏は話した。

 現在、一部のユースケースでは「ゼロタッチ」または「ワンタッチ」運用が実現されつつあると宮坂氏。これは障害原因を自動判別し、適切な復旧プロセスを自動で実行する仕組みで、2030年までにはこのような自動化技術がさらに進化し、AI主導のネットワーク運用が標準となる見込みだ。

AI化の最大の課題は消費電力

 AIの進化とトラフィックの増加に伴い、データセンターにおける消費電力の増大が課題となってると丸田氏。特にGPUの利用増加により、電力消費量が著しく増加しており、KDDIとしては電力需要に対応するため、電力供給が安定している地域へのデータセンター建設を検討しているという。また、AIによる電力最適化も検討しており、省電力化技術の開発にも進めているとのことだ。

 丸田氏は「我々通信事業者としては、AIによってコミュニケーションをリッチにしていくことにフォーカスしているので、今の電力のGPUでそれを実現してくのか、高機能のCPUであったり、もっと消費電力の少ないGPUであったり、これからいろんな選択肢が出てくると考えてます。とはいえ、いずれも消費電力が上がってくるのはもう避けられないだろうと思ってます」と言うように、AIの推論処理に適した、消費電力の少ないGPUや高機能CPUの活用を検討している。

 また、ネットワークトラフィックの増大に対応するため、クラスター型ルーター(DDBR: Distributed Disaggregated Backbone Router)の導入により、ネットワークの拡張性と管理の簡素化を図っている。クラスタ型ルーターは、従来のシャーシ型ルーターと異なり、物理的に複数のルーターを論理的に1つのルーターとして扱うことで、ネットワークの複雑化を防ぎつつ、柔軟な拡張を可能にするものだ。

【まとめ】6G時代を見据えたAI活用

 KDDIでは画像や動画処理におけるAIの活用も視野に入れており、エージェントAIのような形で、AIがそれぞれの得意分野を分担し、連携しながらタスクを実行する分散型のAIエージェントシステムの構築も視野入れているという。

 生成AIや最新技術を駆使して通信インフラの効率化と高度化を進めており、その取り組みは業界全体にも影響を与えそうだ。「2030年にはAI主導型ネットワーク運用が当たり前になる」と予想するように、その実現に向けたロードマップを着実に歩んでいる。

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