3月3日からスペイン・バルセロナで開催中のモバイル展示会「MWC Barcelona 2025」。もう10年以上ブースを構えるNTTドコモですが、今回は同社代表取締役社長に就任したばかりの前田義晃氏に、同社の展示と戦略について聞きました。前田社長は個人的には約15年ぶりのMWC参加だったそうです。
MWC 2025の印象と日本企業の存在感
15年前の前田社長は勉強も兼ねて、MWCに参加したとか。そのときの様子を「あの頃はスマートフォンがちょうど市場に出始めた頃でした。当時、日本のプレイヤーは存在感が薄く、グローバル企業が圧倒的な力を持っていました」と振り返りました。続けて「15年ぶりに参加してみて、日本企業の展示はまだまだ地味だと感じる部分もありますが、それでも海外ビジネスにつながる可能性を模索できていることは良かったと思います」と、出展の成果をアピールしました。
また、以前と比較して展示会の雰囲気が大きく変わったと指摘し、特にAIが今年のメインテーマとなっていることに言及。「AIそのものというより、AIを具体的にどう実装するかという話が多かったですね」と、AIも次のフェーズに進んでいることを語りました。
展示内容と反響、AIやフィールテック技術への期待
「今回の展示では、国内で培った取り組みを国際的な舞台でアピールすることに重点を置きました。特にネットワーク技術やAIを活用したソリューションが注目されており、これらを次のビジネスにつなげたいと考えています」とします。
今年のMWCではAIが主要テーマとなる中、前田社長は「我々のブースではXRの体験型展示やフィールテック関連技術に力を入れました。これらは海外市場でのニーズに応える形で設計されています」と説明します。また、具体的な事例として、位置情報や行動データをAIで分析しターゲティングする技術を紹介。「ベトナム市場での実績をもとに、他国への展開も視野に入れています」と述べました。
ベトナムで展開する位置情報連動型広告プラットフォーム「DOOH(Digital Out of Home)」は、行動データ解析AIが海外バイヤーから「こんなことができるのか!」と注目を集めたそうです。
ドコモブース最大の目玉は「HAPS」
前田社長に今回のドコモブースの見どころを教えてもらいました。それは、NTTグループの宇宙ビジネス戦略「NTT C89」の一環として、HAPS(High-Altitude Platform Station)を含む非地上系ネットワーク技術の展示だそう。HAPSは地上約20km上空の成層圏を長期間飛行する無人飛行体で、従来エリア化が困難だった空域や海上、過疎地域などのカバレッジ拡大を目指しています。「先日打ち上げも成功して、今一番力を入れている分野」とのことでした。ネットワーク以外にも、上空から地上をセンシングしたり、カメラで撮影したりと、HAPSはさまざまな用途で大いに期待されています。
あとは来場者に人気だった書道体験デモ。XRグラス「MiRZA」と遠隔作業支援ソリューション「NTT XR Real Support」を使用して、XR空間での書道体験ができるデモは大きな注目を集めていました。XR技術の実用性と創造的な応用可能性を示すものでした。
MWCの会場をを視察、やっぱり気になるKDDIブース
「コンビニとの融合モデルは日本独自の武器」
前田社長は1日目(3日)に、会場を視察したそうです。その中で気になったものをうかがいました。「ドイツテレコムさんが展示していた巨大ドローンですね。もはやドローンではなく別の物体って感じでした」とのこと。そしてライバルであり同胞でもあるKDDIのブースについては「日本のコンビニ文化をブースで再現してるのは面白いなと。あと全体的にAI推しで、ドコモブースとまったくカラーが違いましたね。髙橋さん(KDDIの髙橋社長)ともお会いしました」と、トップ会談が行なわれたことを明かしました。
前田社長は「KDDIさんのコンビニもそうなんですけど、日本の携帯電話オペレーターが経済圏を構築しビジネスを拡大するモデルは、世界的に見てもユニーク」と指摘します。API連携による収益化だけでなく、経済圏全体でのビジネスの可能性を海外にアピールしていくことが重要だと語りました。
ブースとして気になったのはファーウェイとサムスンだとか。「15年前に来たときはサムスンさんが主役みたいな感じで存在感がすごかったのですが、今ではファーウェイさんがホール1全部を使ったブースを出していて。でも、サムスンさんも相変らずブースが大きい。正直、圧倒されましたね」と前田社長。
MWC出展の手応えと今後のドコモ
MWCに出展することはグローバルでビジネスを展開するため。そういう意味で手応えはどうだったのか? 取材時はまだ2日目ですが、商談などの反応を聞きました。「商談ブースは途切れることなくミーティングが入っていると聞いています。とくにOREX(Open RANのサービスブランド)関連の商談が活発で、ビジネスに繋がる可能性を感じています」と手応えを感じている模様。
また、社長に就任してどのようなドコモにしていきたいのか、今後の同社の方向性も聞きました。「お客様第一の事業をする」という基本姿勢を強調しつつ、具体的には「お客様の声にちゃんと向き合い、スピーディーに答えていく」ことを重視しているそうです。またドコモのグループビジョン「テクノロジーと人間力で新しいつながりを生み、 心躍る価値創造で、世界を豊かに、幸せに。」を体現したいと語りました。「お客さんが使いたいと思うのは、こんなこともできちゃうんだという驚きや喜びだと思いますし、継続的に使っていただくことで生活を豊かにする、そんな企業を目指します」と締めました。
【まとめ】通信技術の未来と日本発ソリューションの可能性
まとめの前に少しだけ余談を。国内最高峰のモータースポーツ「スーパーフォーミュラ」について、2024年のチャンピオンになったこと、2025年はKDDIが参戦することをどう思うか聞いたところ「チャンピオンは素晴らしい成果でしたね。これらの活動は企業としてのコミュニケーション力向上にも寄与しています。KDDIさんが参戦されるのは盛り上がり的にもいいことですね!」とポジティブに受け入れているようです。また、元々F1が好きだそうで、スーパーフォーミュラも注目しているとか。
さて、ドコモのMWC Barcelona 2025への出展は、前述のブランドスローガンを体現する先進的な技術と、ビジネスモデルをグローバルに発信する機会となっているようです。6Gに向けた技術開発、XRやAIを活用した新しいエンターテインメント体験、そして宇宙ビジネス(HAPS)への挑戦など、ドコモは通信業界のリーダーとしての地位を強化し、未来の通信とエンターテインメントの形を今回のブース出展で見せました。
そして前田社長は、日本の携帯電話事業者モデルの強みを活かしつつ、グローバル展開とAI活用を推進することで、ドコモの存在感を高めていく意向を示しました。MWC Barcelona 2025への出展を通じて、ドコモの次なる挑戦が始まったと言えるでしょう。