MWC Barcelona 2025レポート

京セラが通信インフラ事業に本格再参入 スペインからその意気込みを語る

文●中山 智 編集●ASCII

2025年03月09日 09時00分

 京セラのMWCへの出展は9年ぶり、通信インフラ事業の展示としては約15年ぶりの出展となり、同事業への本格的再参入の意気込みをアピールしていた。

京セラ

通信インフラ事業に再参入する京セラが5年ぶりにMWCに

PHS時代に培った基地局技術
5G仮想化基地局の時代に再び本格的に取り組む

 今回の再参入について、ブースで取材に対応した京セラ KWIC 戦略企画部 副統括部長 堀正明氏は、「京セラは、かつてPHS事業で実績を誇ったが、長年のブランクを経て、本格参入する背景には、通信インフラ業界における大きな変革期を見据えた強い危機感と新たな技術革新への挑戦がある」と話す。

京セラ

京セラ 堀正明氏

 再参入のきっかけは約5年前から始まった「オール京セラプロジェクト(AKプロジェクト)」の存在がある。これは、各事業本部が持つ通信関連の優れた技術を結集し、シナジーを生み出すことを目的とした全社的な取り組みだ。そして、このプロジェクトを経て、本格的な技術開発を推進するために、社長直轄の組織「KWIC」が設立され、今回のMWCへの再出展へと繋がった。

 京セラが再び通信インフラ事業に注力する理由の一つとして、LTEへの参入が遅れたという過去の経験がある。しかし、その間に培ってきた技術力や、かつてインフラ事業に携わっていた人材を再結集することで、堀氏は「継承できるラストチャンスが残っている間にもう一度やろう」という強い思いが同社にはあると説明していた。

 今回の京セラの展示テーマは「No Border Go Bolder」。「No Border」は、通信インフラのクローズな世界をオープンにし、新たな価値創造を目指すO-RAN(Open Radio Access Network)の推進を意味する。

 一方、「Go Bolder」は、近い将来に到来すると予測されるAI RANやクラウドRANといった、まったく新しい次元の通信インフラの世界へ積極的に挑戦していく姿勢を示すものとのこと。

 ブースでは、京セラが中心となり設立したO-RANアライアンスに関連したソリューションを展示。現在大手ベンダーに寡占されているO-RAN 5G市場において、各社の強みを持ち寄り、よりオープンで多様なソリューションを提供していくことを目的としている。

 京セラ自身も、無線ユニット(RU)の開発・製造を手掛けており、他のパートナー企業と連携することで、基地局のトータルソリューションとしてのビジネス展開を目指す。堀氏は「O-RANの世界で戦える勢力になっていきたい」と語り、今回の提携はその第一歩であると強調していた。

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 技術展示としては、CUDU(集中型ユニット/分散型ユニット)を紹介。1つのグレースホッパー(汎用サーバー)に20セルを搭載可能という高集積・高性能なCUDUを展示しており、1セルあたり1.5Gbpsの速度を実現し、デモでは20セルで合計30Gbpsの伝送能力がある。

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 また仮想化技術を活用し、ユーザー数の増減に応じてCUの数を動的に増減させるデモも実施された。さらに、世界初となるグレースホッパー上へのFR2(ミリ波帯)の実装や、AIを活用したセルエッジユーザーのスループット改善(280%向上)などのデモも実施。AIによる基地局のオンオフ制御による省電力化(64%の使用率で20%削減)も実現している。

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KDDIとミリ波帯のリピーターを共同開発
都市部でのミリ波を用いた広範囲でのエリア化を可能にする

 KDDIと共同開発したミリ波帯リピーターは、360度全方位を自律的にサーチし、最適な電波を受信して広範囲に拡散。電波が遮断された場合には、自動的にリルーティングをする機能も備える。

 新宿副都心でのフィールドテストでは、リピーターを約20台設置することで、カバレッジを33%から99%まで大幅に向上させることに成功(「KDDIと京セラ、ミリ波のエリアを拡張する中継技術 西新宿のビル街を広くカバー」)。光ファイバー敷設が困難な地域や、集合住宅などにおける高速ブロードバンド環境の構築への応用が期待される。

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 そのほか高出力なミリ波帯の基地局(CP)と宅内Wi-Fiルーターを組み合わせることで、光回線の代替となる高速ブロードバンド環境を提供する「ミリ波固定無線アクセス(FWA)」や、ミリ波の直進性を利用し、電波の方向を屋内に曲げることで、通信環境を改善する「メタサーフェス反射板」といったソリューションも展示していた。

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 ミリ波基地局で使用されるフェーズドアレイアンテナのライブデモンストレーションも披露。京セラは2つのアンテナプラットフォームを開発しており、一つは512個の素子を持つ大型のアンテナで、方位角と仰角の両方で広い範囲を電子的にスキャン可能。

 そして、プレゼンテーションで紹介されているのは、ミリ波基地局用のより小型のアンテナで、方位角でプラスマイナス60度、仰角でプラスマイナス15度をスキャン可能なモデルだ。

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 このアンテナは高度に統合されたアセンブリであり、京セラのサンディエゴのチームが設計したチップが組み込まれており、アンテナ内部には低ジッターのシンセサイザー(サブ63フェムト秒)も搭載している。

 このアンテナは、1つのアンテナとして動作する「2T2Rモード」と半分に分割して2つのアンテナとして動作する「4T4Rモード」。そして4つのセクションに分割して8つの同時ビームで動作する「8T8Rモード」と3つの動作モードをサポートしている。

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 これによりビームの形状を制御でき、日本の通信事業者からの要求に基づき、広範囲かつ狭いビームを合成し、均一な照射を実現できるとしている。ブースには電波暗室を設置し、複数の独立したビームを異なる方向へ同時に放射する「マルチビームオペレーション」などがデモされていた。

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