
Liquid GlassはWindows Vistaに似ている?
アップルがWWDC25において、iOSやmacOSなどアップル製品のOSに共通して導入することを発表した新デザイン、「Liquid Glass」。
下にある表示やコンテンツが透けて見えるだけでなく、周囲の光が反射・屈折するかのように見た目を変えるなどの演出が可能になったといいます。

Liquid Glassを採用したiOS 26
この透過するインターフェースを見て、Windows Vista(に採用されていたGUIのテーマ「Windows Aero」の機能、「Aero Glass」)を思い出した人も多いようで、SNSでも話題になっています。透過ウィンドウなどの視覚効果は、確かに似ているように見えます。

2006年のWindows Vista。もう20年近くが経つわけで、懐かしいですね……
実は、Windows Aeroのような「3DCGによるトランスルーセントやスキューモーフィズムを用いたガラスのような光沢や立体感のある要素」は、2013年頃まで流行し、現在では当時のトレンドとして「Frutiger Aero」と振り返られているほどの潮流なのです(Frutiger Aero - Wikipedia)。

起動中のアプリケーションなどのウィンドウが3D表示になり、アニメーションしながらアクティブウィンドウを切り替えられる「Flip3D」もありました
しかし、アップルが導入するLiquid Glassのデザインと、Windows Vista(というよりは、Windows Aero)のデザイン。どちらが良い/悪いではありませんが、発想としては真逆のものと考えられるのではないでしょうか。
かつての流行だったスキューモーフィズム
2013年、アップルは「iOS 7」を発表し、「フラットデザイン」と呼ばれるシンプルな基調を採用しました。

「フラットデザイン」で話題となったiOS 7。発表からもう12年が経ちます
シンプルにいえば、それまでのiOSはいわゆる「リッチデザイン」、つまりリアルな質感を押し出したデザインでした。たとえば、カメラのアイコンであれば、カメラのレンズをリアルに模したような外見だったわけです。
そのように、ディスプレー上にリアルな物体を再現するデザイン手法は「スキューモーフィズム(Skeuomorphism)」と呼ばれていました。現実世界にあるモノと似た外見なので、立体的なボタンであれば「ああ、これはボタンで、この部分を押せるのだな」とユーザーがすぐわかるメリットもあります。
iOS 6以前のiOSがスキューモーフィズムを取り入れていたのも、マルチタッチパネルでの操作にユーザーが早く順応できるように(このアイコンは何を示すのか、直感的にわかりやすいように)作られたという考え方もあるでしょう。

iOS 6。「カメラ」のアイコンはリアルなレンズ、「写真」のアイコンは写実的なヒマワリ……といった具合
Windows Vistaに採用されたUIも、それに近い思想があったのではないでしょうか。透明効果と光沢の表現が多用され、より現実に近い(ダジャレのようですが、「(ガラス)窓」のような“ウインドウ”の表現)リッチな外見が取り入れられていました。
Windowsも、iPhoneも、Androidも
フラットデザインに向かっていった
一方、フラットデザインは、シンプルな要素や図形とともに明るめの色を用いて、わかりやすさを強調したデザイン。iOS 7から「カメラ」のアイコンはシンプルになりましたし、「写真」はカラフルなロゴになりました。
スマホの画面上にさまざまなアイコンを積み重ねる上で、アップルがフラットデザインを採用したことは自然な流れといえます。
また、iOS 7の目玉とされていた画面下から引っ張り出す「コントロールセンター」の導入や、すべてのアプリがマルチタスクでのバックグラウンド動作が可能になったことも、フラットデザインの採用と無関係ではないはずです。

iOS 7のコントロールセンター
個々のアイコンが複雑なデザインのままでは、階層化もできず、ごちゃごちゃした見た目になってしまいます。かといって、スマホの画面を極端に大きくするわけにもいきません。限られた画面サイズで、いかに情報を展開していくか。その答えの一つが、フラットデザインの採用だったのではないでしょうか。

iOS 7でのUIは「背景」「メイン画面(もしくはホーム画面)」「メニュー画面」の3層構造になっていました。このレイヤーの階層化のために、フラットデザインは適していました
スマホが社会に普及してきたこともあり、現実の「カメラ」や「写真」の外見にアイコンのデザインを寄せなくとも、多くのユーザーが何をするためのアプリなのかをすぐに理解できるようになった(リアルな表現を使わずともよくなった)という面もあるかもしれません。
全体を立体的に見せるためには、素材はシンプルでなくては。「スマホ1台でいろいろなことができる」ようになるために、iOSがフラットデザインに向かうのは必然でした。
そして、フラットデザイン化の流れは、スマホからタブレット、PCにも波及していくことになります。
もっとも、iOSがフラットデザインの先駆者だったわけではなく、Windows Phone 7.5の「メトロデザイン」(Metro UI)は2011年に登場していますし、同じ頃から「Gmail」や「Chrome」などのグーグルのサービスもフラットデザインを取り入れていたものです。
そもそもWindows自体も、立体的なGUIデザインからフラットデザインに移行していきました。2012年に「モダンUI」を採用したWindows 8が登場するのは象徴的でしょう。

Windows 8を象徴するといってもよい「スタート画面」
どちらかといえば、iOS 7は“モダンなデザイン”に後から入っていった側だということはいえるかもしれません。いずれにしても、その後、iPhoneもAndroidも、そしてPCのOSさえも、フラットデザインの潮流の中で進化していくのです。
Liquid Glassは
フラットデザインの進化系ではないか
そして、iOS 7の登場から12年。2025年に登場するLiquid Glassは、フラットデザインに奥行きを与えたような発想のソフトウェアデザインに見えます。

「薄いガラス板」(平面)なインターフェースが重なっているように見えるLiquid Glass
背景の上に平面なインターフェースが重なっていくのは、これまでのフラットデザインの発想。その上で、半透明処理がされているため“透ける”(後ろが見える)ことや、状況に応じてインターフェースそのものが動的にサイズを変えることなどが、表示の見やすさに一役買っています。
たとえば、macOS 26のコントロールセンターに透過性があることや、メニューバーが透明になったことなどは、視界を妨げない=ディスプレーがより大きく感じられるようになる、という効果もあるでしょう。

透明なメニューバーも、背面が透過して見えるコントロールセンターも、画面を大きく見せる効果があるのでは
また、SafariやApple Musicなどのアプリでは、コンテンツの上にタブバーをフローティング形式で配置し、スクロールに応じて縮小するなどの設計を導入しています。
これは、フラットデザインが可能にしたレイヤーの階層化を、よりスムーズにしたものといえるかもしれません。画面の上に重なっているものが透けたり変形したりすることによって、ユーザーはよりコンテンツを見やすくなるのです。

iOS 26で、Apple Musicの画面をスクロールすると……

コンテンツに応じてタブバーが縮小されます
Liquid GlassのUIは、「リアルな(あるいは、リッチな)ガラスの質感を再現する」というイメージとは、真逆ではないでしょうか。現実世界にあるガラスを模すという意味ではなく、透明なイメージとしての“Glass”というネーミングが付いているのでは、と。
画面上にコンテンツを多数展開するために個々の要素をシンプルにすることがフラットデザインの目的の一つだとするのであれば、Liquid Glassは、コンテンツを閲覧することや、複数のアプリ(ウインドウ)を展開することを、さらにやりやすくすることを目指しているように思われるのです。

フラット(平面)なものが透けたり変形したりすることで、よりシームレスな体験を実現する。それがLiquid Glassなのではないでしょうか
アップルはLiquid Glassについて、「シームレスな体験を実現します」とうたっています。フラットデザインに、さらに「変化する、透過する」効果を与えたことで、画面上のさまざまな階層をよりシームレスに移動できるようになる……。
それがLiquid Glassの狙いだとするのであれば、フラットデザインの進化系と考えるべきでしょう。同じように透過するインターフェースであっても、かつてのWindows Aeroとはまた違ったコンセプトだといえるのではないでしょうか。
一つ思い出されるのは、Windows Vistaの時代は、GPUのパワーを無駄にしないために視覚効果をオフにする人が少なくなかったこと。Liquid Glassを導入したiOSやmacOSの視覚効果は楽しそうですが、iPhoneやMacBookのバッテリー持ちにどのように影響するのかは注目ですね。