ソフトバンク成層圏5G通信実証実験に成功! 八丈島で実施

文●村元正剛(ゴーズ) 編集●ASCII

2025年09月24日 17時30分

 ソフトバンクは18日、HAPS(成層圏通信プラットフォーム)向けに、6セルに対応した大容量ペイロード(通信機器)を開発し、上空からの5G通信の実証実験に成功したことを発表。同日、オンラインでメディア向けのブリーフィングも開催された。

 メディア向けブリーフィングでは、ソフトバンク テクノロジーユニット統括 基盤技術研究室 無線技術研究開発部 部長の星野兼次氏が説明にあたった。

ソフトバンク 無線技術研究開発部 部長の星野兼次氏

 星野氏は、ソフトバンクのこれまでのHAPSへの取り組みを振り返った。HAPSは気流の安定した成層圏にアンテナを搭載した機体を飛ばし、広域な通信エリアを形成するもの。地上の基地局ではカバーできないエリアも“圏内”にし、災害対策にも活用される。ソフトバンクではドローンなど空中での通信利用も想定しているという。

まず、HAPSの概要について説明された

災害時や遠隔地での利用だけでなく、3次元空間での活用も想定されている

 ソフトバンクは2020年と2024年に成層圏でのフライトに成功し、2023年には世界で初めて成層圏からの5G通信に成功している。HAPSの機体を長期間安定して飛行させるための技術開発も同時に進め、太陽光パネルや電池の軽量・効率化にも成功している。

ソフトバンクのHAPS開発の実績

HAPSに使われる3つの独自技術

 HAPSには、ゲートウェイと機体を結ぶフィーダリンクと、機体とスマホなどの端末をつなぐサービスリンクが不可欠。このうち、サービスリンクの要素技術のこれまでの開発について説明された。

HAPSのネットワーク構成

 サービスリンクには「フットプリント固定技術」「エリア最適化技術」「周波数共用技術」の3つの技術が用いられる。「フットプリント固定技術」とは、HAPSでカバーする通信エリアを固定する技術。HAPSの機体は旋回するため、フットプリントが移動する。ソフトバンクが開発した「シリンダーアンテナ」によって、ハンドオーバーが発生せず、受信レベルを安定させることができるという。

サービスリンクの要素技術

フットプリント固定は、自社開発のシリンダーアンテナによって実現

シリンダーアンテナは、円周方向および鉛直方向にアンテナ素子が配置され、これらの素子を個々に制御することで、任意の方向に対してのビーム制御が可能

実証実験でも効果が確認された

「エリア最適化技術」は、シリンダーアンテナによって、エリアの状況にあったビームフォーミングを行ない、エリア内で効率のよい通信を実現する技術だ。

人が多いエリアなどを認識して、通信を最適化する技術も研究されている

高所作業車を用いた実証実験も行なわれた

「周波数共用技術」は、HAPSと地上で同じ周波数が使われる場合に生じる干渉を抑圧し、周波数を共用できるようにするもの。「ヌルフォーミング」という技術が使われている。なお、それぞれの技術は、すでに実証実験で有効性が確認されている。

ヌルフォーミングは同一の周波数を用いる場合の干渉を避ける技術

気球を用いた実証実験で、効果を確認済み

基地局と受信端末間の
エンド・ツー・エンドの5G通信に成功

 続いて、今回発表された大容量ペイロードの実証実験について説明された。この実験は、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)の「革新的情報通信技術研究開発委託研究」として取り組んでいるもので、研究開発課題名は「Beyond 5Gにおける超広域・大容量モバイルネットワークを実現するHAPS通信技術の研究開発」。

 令和5年(2023年)から5年間のプロジェクトとなっている。HAPSによる通信量を大容量化し、周波数の利用効率を向上させることを目的としている。

今回の実証実験の目的

 今回開発されたのは、6セルに対応したサービスリンクとフィーダリンクを結合させたペイロード。実証実験は2025年6月に八丈島で行なわれ、高度3000mに滞空する軽飛行機に新たに開発したペイロードを搭載して通信を中継させることで、基地局と携帯端末間のエンド・ツー・エンドの5G通信と、6セルのフットプリント固定技術の実証に成功したという。

実証事件は、広域でデータを測定できる東京都八丈島で実施

開発されたペイロードとネットワークの構成

開発された装置の概要

地上のゲートウェイアンテナにはビームトラッキング技術を導入

駐機場内試験の様子

実証実験に使われた軽飛行機

飛行中の軽飛行機の内部

地上測定の様子

海上測定の様子

飛行試験中のゲートウェイ

 軽飛行機の旋回の中心から15kmの地点で、下り平均約33Mbpsのスループットを記録し、通信エリアの端においても5G通信が可能であることが確認されたとのこと。なお、機体の旋回中心から15kmの地点における高度3000mの機体の仰角は約11度で、これはエリア半径100kmの地点における高度20kmのHAPSの仰角と同等。つまり、HAPSのカバーエリアの端でも通信を維持できる見通しが得られたという。

実際のHAPSのサービスエリアでの品質についても見通しがついたという

 ソフトバンクは2026年にHAPSのプレ商用サービスを開始することを発表している。今回の実証実験の結果を踏まえて、さらにペイロードの改良、大容量化を進め、商用サービスでの実装を目指しているという。なお、商用サービスの開始時期や提供形態などについての言及はなかった。

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