ユーザーが自由にサウンドを作り上げられるイヤホンを衝動買い
オーディオの世界において「ブランドの音」は、長らく不可侵の聖域であった。かつて私たちがAKGやShure、BOSEといった名門の音を求める際、それはそのブランドが設計したハードウェアを丸ごと受け入れることを意味していた。しかし、ここ数年でその常識を根底から覆す異端児が現れた。
ソフトウェアの力でハードウェアの限界を突破し、数多の高級機の音色をシミュレートするという、極めてデジタル・ガジェット的なアプローチである。こうした「音の民主化」とも言える潮流は、かつて特定のハードに縛られていた我々ユーザーを、より自由で挑戦的な試行錯誤の渦へと誘い込んでいる。
今回筆者が手にした「JPRiDE Model i ANC MK2 QUEST」は、まさにその急先鋒に立つ一台だ。一見すると、どこにでもあるワイヤレスイヤホンに見えるかもしれないが、その実体は「OSを持たないCPUとグラフィックエンジンだけのPC」のような、真っ白なキャンバスである。
筆者は以前、このシリーズの初代機を手にしていたが、その当時はまだ「Rock-A」や「Jazz-B」といった記号的なプリセットを切り替える程度の遊びに留まっていた。しかし、この「MK2」となってからの進化は、かつてのそれとは比較にならないほどアグレッシブだ。
このガジェットの真骨頂は、専用アプリ「SoundMake」を介した、イヤホン内部のDSP(デジタル信号処理チップ)への直接的な介入にある。このエミュレーションの原理は、近年のギターアンプ・エミュレーターに近い。Fender Twin ReverbやMarshallの音を、まったく異なるスピーカー構成で再現するあの技術と同様、要は「人間の耳にどう聞こえるか」をデジタル演算でコントロールしているのだ。
振り返れば50年ほど前、ローランドの初期シンセサイザーが蒸気機関車の音を再現したあの感覚に近いのかもしれない。従来のイヤホンアプリが「料理にソースをかける」程度だとすれば、QUESTがしているのは「食材の分子構造を組み替えて別の料理に見せかける」ような作業だ。





























