様々な製品風の「音の設計図」がネット上に溢れている
筆者の最近のモバイルオーディオ遍歴は、2012年にハイエンドのAKG K3003とColorflyのプレーヤーを手にしたところで一つの区切りを迎えた。その後は利便性を優先してスマホとワイヤレスイヤホンの組み合わせに移行したが、音楽への熱量は変わらない。70年代のハードロックから80年代メタル、ジャズボーカル、そしてK-POPまで幅広く楽しむが、高校時代の軽音部でエレキベースを担当して以来、ずっとジャンルを問わず「低音の音圧」には並々ならぬこだわりがある。
実は40年以上前にも、自宅ではグラフィックイコライザーとコンデンサーマイクを駆使してリスニングポジションの音響補正をしていた筆者にとって、このQUESTの仕様はまさに「待ち望んでいた偏執狂的変態玩具」そのものだった。
特筆すべきは、その「音の設計図」がユーザーコミュニティによって爆発的に拡散されている点だ。公式サイドでは商標の関係でクチにできない「Shure SE846風」といった設定が、16進数の設定コードとしてSNS上で流通している。筆者も早速、アプリ内の「SOUNDMake CLOUD」に自作のプリセットを登録してみた。
タイトルは「Unchain my heart by Joe Cocker」。ウッドストックの頃から敬愛するジョー・コッカーのハスキーな歌声を活かしつつ、ベーシストとしての血が騒ぐままに低域とバスドラムの切れのよい音の両方を鮮明にブーストした設定だ。こうした「自分だけの最適解」を世界に公開し、誰かのコードを拾って試すプロセスは、かつてのオーディオ鑑賞とはまったく別次元の楽しさがある。
かつて高価なイヤホンを何台も買い揃えていたぜいたくな悩みは、今やこの1台とアプリの中で完結しようとしている。これはオーディオという趣味が「所有の喜び」から、マニアの知恵をコード化して共有する「ハックの喜び」へとシフトし始めている兆しなのかもしれない。
自分だけの自由な「推しの音」との生活が1万円以下で手に入る
現代は「推し活」が極限まで多様化した個性の時代だ。200年前から続くその文化は今、デジタル技術と融合し、「みんなと同じ」ものを享受するより、自分の価値観で「推したいもの」を自分のスタイルで愛する自由を我々に与えてくれた。
「結局、ハードは安物じゃないか」と冷笑する向きもあるだろう。確かに、物理的な高級感やブランドロゴの魔力はこの製品にはない。しかし、限られたリソースの中で理想の音圧を求めて夜な夜な数値をいじる時間は、何物にも代えがたい「ガジェット愛」であり、自分だけの音を育てる「推し活」そのものである。
もしあなたが、かつての名機たちの音に憧れを抱きつつも、その価格に二の足を踏んでいるのなら、この「16進数の魔法」に身を委ねてみるのも悪くない。少なくとも、明日の朝には「BOSEの耳」で通勤し、夜には「Shureの耳」でベースラインを追うという、極めて個人的で自由な「推しの音」との生活が、1万円以下で手に入るのだから。

今回の衝動買い
・アイテム:JPRiDE(Model i ANC MK2)QUEST
・購入:JPRiDE Official Shop
・価格:9999円(2025年12月22日購入)
T教授
日本IBMでThinkPadのブランド戦略や製品企画を担当。国立大芸術文化学部教授に転職するも1年で迷走。現在はパートタイマーで、熱中小学校 用務員。「他力創発」をエンジンとする「Thinking Power Project」の商品企画員であり、衝動買いの達人。




























