MWC Barcelona 2026レポート

KDDIが海外に売るのは「通信」ではなく「失敗の経験」! MWCで語ったグローバル戦略の中身

文●石井 徹 編集●ASCII

2026年03月10日 12時00分

 日本の通信キャリアが相次いで海外展開を進めるなか、KDDIも「MWC Barcelona 2026」でグローバル事業の方向性を打ち出した。ただし、同社が売り込もうとしているのは通信インフラそのものではない。日本市場で積み重ねてきた試行錯誤のノウハウだ。

 KDDI パーソナル事業本部パーソナル事業戦略本部長の秋山敏郎氏がグループインタビューに応じ、グローバル事業の現状を語った。

KDDI パーソナル事業本部パーソナル事業戦略本部長の秋山敏郎氏。MWC Barcelona 2026の会場でグループインタビューに応じた

 秋山氏はKDDIの事業を「次世代の社会インフラ」と定義した。通信品質はOpenSignalの評価で世界1位を獲得している。加えて、エネルギーや金融、ローソンとの協業による地域密着型サービスなど、通信以外の領域にも事業を広げてきた。「携帯キャリアでコンビニを支援しようとしているところはそんなにない」と秋山氏。この異例の事業構成こそが、海外に持ち出せる独自性だと考えている。

 秋山氏はこれを「社会課題先進国の携帯キャリアならではの進化」と表現した。日本は人口減少や高齢化に他国より早く直面しており、その解決経験を今後同じ課題に直面する国や地域に提供できるのではないかという考えだ。

ハードではなくソフトを売るのが海外へのアプローチ

 海外展開のアプローチについて秋山氏は「ハードではなく、それを支えるソフト的なもの。失敗の経験を売ろうとしている」と説明した。ただし、現時点ではパッケージ化された商品があるわけではなく、コンサルティングに近い形で各国の潜在的パートナーと対話を重ねている段階だ。何を、誰に、いくらで売るのか。その輪郭はまだ定まっていない。

 具体的にどのような知見が求められているのか。秋山氏によると、海外の通信事業者が関心を寄せるのは、ユーザーにIDを付与して各種サービスを紐付ける仕組みや、大規模な回線運用管理のプロセスだ。日本の通信事業者では当たり前に行なわれている作業が、海外では実現できていないケースが多いという。

 「営業トークでは、私たちのどこがすごいとはダイレクトに言えない。ただ、何十年もやってきて、一通りの社会課題を経験してきた。僕らの方が優れているわけではないが、大人なりの知見はあるので使ってほしい」と秋山氏は話す。相手国の通信事業者が成長を目指すなら、その経験を共有する用意があるという姿勢だ。

KDDIがグローバル展開で掲げる共創モデルの全体像を示したスライド。ネットワークインフラを基盤に、デジタルプロダクトやロイヤルティ管理を組み合わせた構成になっている

povoは海外にパッケージ展開
足かけ2~3年で計画

 パッケージ化された商品の代表例はpovoだ。海外展開は足かけ2〜3年の時間軸で進めており、複数の商談が進んでいるという。ただし秋山氏は「パリッとしたファクトをお話しできる段階ではない」と繰り返した。

 povo以外にも複数の企業とエンゲージメントを進めている。商品化の対象として浮上しているのは、ネットワーク運用のチューニングや、マーケティングオートメーションのCoE(センター・オブ・エクセレンス)機能など、オペレーション領域での共同運用だ。

通信サービスpovoはAPIを企業向けに展開。ホワイトレーベル化したサービスとして国外進出も測っている

楽天やドコモのような通信技術と異なり
ID基板やコンビニとの協業などの運用ノウハウを海外に販売

 日本の通信事業者のグローバル展開では、楽天シンフォニーとドコモが先行している。楽天シンフォニーはOpen RANのプラットフォームをパッケージ化し、ドイツ1&1やバングラデシュ、ウズベキスタンなどで協業を進めている。MWC26ではGoogle Distributed Cloudとの統合も発表した。ドコモはNECとの合弁会社OREX SAIを通じ、インドネシアで5G FWA(固定無線アクセス)の商用展開を2026年に開始する計画だ。

楽天シンフォニーは楽天モバイルが使っている通信基盤を海外キャリアに展開する企業だ(MWC26での楽天三木谷社長講演より)

 両社に共通するのは、通信技術そのものを商品化して別会社経由で販売するモデルだ。KDDIの秋山氏もこうした形態への「興味はある」と認めたが、自社のアプローチは異なると説明した。KDDIが提供するのはID基盤の構築やコンビニとの協業、決済サービスなど通信以外を含む運用ノウハウだ。パッケージ化が進めば別会社設立も選択肢になるという。

 関心を寄せる地域は、東アジアを中心にアメリカや中東にも広がっている。秋山氏は「ジャパンブランドがまだ力を持っている地域から、ご興味をいただくことが多い」と話した。

組織体制も再編、2026年4月にグローバルコンシューマ本部へ

 グローバル事業の組織も変わる。かつて独立していた部門は2025年4月にパーソナル事業本部に統合され、2026年4月にはグローバルコンシューマ本部に改編される予定だ。規模は「初期は数十名。リーンに始めて高速で回していく」と秋山氏。数百名規模は想定していない。

 優先領域は2つ。ユーザーとのエンゲージメントを高めるデジタルプロダクトと、ネットワーク品質の向上だ。エンゲージメントが上がればARPU(1ユーザーあたりの収益)が伸び、設備投資の原資が生まれる。このサイクルを回せるかが、多くの通信事業者に共通する課題だと秋山氏は指摘した。

 具体的な成果の発表時期について、秋山氏は明言を避けた。取材の場では記者から「構想の段階にとどまっているのではないか」と問われ、秋山氏は「具体化してからというのは、僕もそう思う」と率直に認めた。どの国のどの事業者に、何をいくらで提供するのか。povoを除けば、その問いに対する答えはまだ出ていない。

 ただし、秋山氏は「進捗がなければこういう場に出てこない」とも述べており、年内に何らかの動きが見えてくる可能性はある。楽天やドコモが技術の輸出で先行するなか、KDDIは「経験の輸出」という独自路線で勝負に出る。構想が実を結ぶかどうかの分岐点が近づいているようだ。

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