MWC Barcelona 2026レポート

NTTデータがMWC26で示した法人向けAIエージェントの現在地 3領域で実用段階に

文●石井 徹 編集●ASCII

2026年03月16日 09時00分

MWC26のNTTブース。リング型LEDディスプレイを中心に複数のソリューションゾーンが並んでいた

 2026年3月2~5日にかけてスペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelona 2026。NTTブースでNTTデータが公開した法人向けAIエージェントのデモは、欧州拠点を中心に開発した3つのソリューションで構成されていた。

 音声AIエージェント基盤、Spatialウェブ(空間ウェブ)を活用した購買体験、AIによる採用候補者スクリーニングだ。いずれも実導入済みか商用展開が近い段階にある。

数クリックで音声AIエージェントを構築できる
管理プラットフォーム

 1つ目は「Smart AI Agent Platform」だ。管理者向けポータルから数回クリックするだけで、音声AIエージェントを作れる。LLMはOpenAIのGPT Realtimeなど複数から選べ、エージェントの名前やアバター、音声の性別やトーンも設定できる。通話速度やノイズ管理のほか、AIの創造性を制御する「温度」パラメータも調整できる。

 コールセンターや問い合わせ対応など、電話業務の自動化を主な用途に想定している。エージェントにはNTTのPSTN網から電話番号が付与され、国別の番号も同じ画面で取得できる。顧客側がCopilot Studio・A2A・MCPで構築したサブエージェントとも連携でき、エンドポイント情報とセキュリティプロトコルを指定したプライベート接続なので、顧客データはNTTデータ側に渡らないし、LLMの学習にも使われないのが特徴。

NTT DATAのAIエージェント管理ポータルで電話番号(DDI)を割り当てたところ。内線転送先の設定も同一画面で完結できる

 デモに登場したのは「Helen」という音声エージェントだ。日英のリアルタイム切り替えや、ユーザーが強く要求した際に人間のオペレーターへ転送する場面を実演した。転送時には壊れたノートPCの状況やチケット番号など、会話の経緯がそのまま引き継がれる。感情分析ダッシュボードによるKPI管理の仕組みも備えている。

音声エージェント「Helen」が日本語に切り替わった会話ログ。ユーザーの言語変更リクエストにリアルタイムで対応している

AIエージェントのインタラクション管理画面。過去30日間で7576件の通話を記録しており、ステータスと感情スコアを一覧で確認できる

消費者AIと店舗AIが自律交渉
通信キャリアが仲介する購買体験

 2つ目はGSMAのOpen Gateway標準APIと空間ウェブを組み合わせた小売購買体験だ。空間ウェブとは、物理空間にデジタル情報の層を重ねる概念で、ARゴーグルやスマートフォンを介してその場にいる人だけが仮想オブジェクトを見られる。

 デモでは消費者が「1000ドル以下の高解像度ノートPC」という購買意図をネットワークに送信し、ジオフェンシングエリアに入ったところから始まった。

Spatialウェブのデモのデバイス構成。iPad(小売業者アプリ「Retail, Reinvented.」)、スマートフォン(消費者エージェント「Eva」)、Apple Vision Proが連動して動作する

 周辺店舗のAIエージェントが自動で交渉を始め、価格や割引条件を競い合いながら最適な選択肢を提示する。

テレビ画面に表示された店舗AIエージェント「NeoTek Hub」の交渉ログ。消費者の予算と解像度条件に対してラップトップの仕様と割引率を提示している

 決済はQRコードかキャリア課金のほか、銀行口座への直接接続にも対応している。小売業者側には、接続デバイス密度から人口動態を分析してエリアを設定する機能もある。

iPadの小売業者アプリで設定したジオフェンシングエリア。「TechVerse(Gran Vía 37)」を選択し、週平均870人が来店するエリアに対してAIエージェントの活動範囲を設定している

 NTTデータはアプリケーション層から決済・トランザクション層まで全スタックを担当し、ネットワーク層ではNTTドコモと連携する。次フェーズではTIM Italia、TIM Brazil、Telefonicaとも協業予定で、このプロジェクトはすでにTM Forumで最優秀ショーケース賞を受賞している。

国連で実導入済み
応募70万5000件をAIがスクリーニング

 3つ目は国連ボランティア(UNV)に実導入済みのAI採用スクリーニングシステムだ。UNVは国連の人事機関として機能しており、2025年には70万5000件の応募から1万5000人を選ぶ作業を18人で担っていた。

NTT DATAが国連ボランティア(UNV)向けに導入したAI採用スクリーニングの概要。採用効率80%向上、候補者選定品質40%改善という結果が示されている

 「ケニア勤務経験あり、国連業務知識あり、プログラム管理経験8年以上」などと自然言語で条件を入力すると、500人規模のリストのレビューに2~3日かかっていた作業が、ほぼ即座にスコアリング結果として表示される。さらに、この各候補者がなぜ条件に合うかの理由も表示される。

候補者「Sylvan Szymański」のAIマッチング分析。条件を満たす項目と満たさない項目が根拠とともに表示され、スコアの算出過程も確認できる

 品質管理のために「ジャッジ(judge)」と呼ぶAIも搭載している。データセットの国籍バイアス除去、AI生成履歴書の検出、ハルシネーションの削除の3つを担う。UNVの測定では、このシステムで採用した候補者の生産性が従来比40%高かった。日々のレポート件数など、実務アウトプットでの比較だ。

 AIによる人材スクリーニングへの倫理的な懸念については、担当者は「AIが人間より公平に選考できるとは言い切れない」と認めた。ただ、国籍や個人的なつながりによる偏りを排除し、スキルと職務要件のマッチングに絞れる点に意義があると説明した。

 「顧客固有のビジネスプロセスや情報が、AIに組み込まれていないことが最大の課題」とNTTデータの担当者は語った。世界70ヵ国以上でITサービスを展開するグローバルSIerとして、開発後の保守と継続的な改善まで、顧客に並走するアプローチを差別化軸に据えている。

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