アップルiPhone低迷説は本当か? 去年の教訓から考える

文●松村太郎 @taromatsumura

2018年11月22日 16時00分

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 アップル株が大幅に下落を続けています。10月末の段階で230ドルを上回っていた株価は3週間で180ドルを下回る水準になり、最大で25%ほどの下落となりました。

 もっとも米国株式市場を牽引してきたテック株はそれぞれの理由から下落幅を拡げており、アマゾンもアップルと同程度の25%の下落。フェイスブックに至っては高値から半額程度にまで落ち込んでいます。ネットフリックスも30%超の下落となりました。

●なぜアップル株は下落を早めているのか

 株価は企業の現在と将来の評価をあらわすと言えます。アップルも2018年第4四半期(7〜9月)は過去最高の売上高を記録しましたが、2019年第1四半期(10〜12月)の見通しが弱気だったことを受けて、利益確定を含む売りが出たと考えられます。

 アップルでCEOを務めた経験を持つジョン・スカリー氏は、アップルが8月に時価総額1兆ドルを上回った際、「アップルは今価値がある企業として評価されているが、アマゾンやグーグルは将来価値がある企業として評価されている」と、テクノロジー企業の間での見方の違いを明らかにしました。

 スカリー氏のコメントから考えると、アップルは今価値がある企業であり、価値を維持している要素に問題が生じれば、評価が減少することを意味しています。価値とは「iPhoneの好調な販売」ということでしょう。

 アップルは、来期への弱気な見方は、消費者信用指数の低下、ドル高などの市場環境に起因している、と先の決算発表の電話会議で述べていました。同時に、販売台数を発表しないことは、投資家に対して良い数字を示せないことの裏返しとみられました(連載第19回参照)。

 もちろん株価は企業の指標ではありますが、下落したからすぐに経営が傾くという話ではありません。特にアップルは手元に潤沢な資金があることから、資金調達に関しても大きな影響はないでしょう。

 しかし役員や従業員は、アップル株やストックオプションを給料の一部として受け取っています。シリコンバレーでは、企業から受け取った株やオプションを元手に住宅を購入する人も少なくありません。

 その価値が短期的に大幅に毀損しているのが現状であり、アップル本体が大丈夫でも、シリコンバレーで暮らす従業員の生活が先に破綻する可能性があり、このことは企業やシリコンバレー全体の求心力や活力を削ぐことになるかもしれません。

●iPhone Xは売れていた

 さて、時計の針を昨年に戻してみましょう。2017年11月3日に999ドルからという価格で発売したiPhone X。高い価格でのチャレンジに対して、メディアは「うまくいかない」「低迷している」の大合唱でした。

 アジアのサプライチェーンの情報からiPhone Xの製造にブレーキがかかっているという情報から、アップルの株価の下落も招きました。しかしフタを開けてみると、iPhone Xは約9ヵ月間、アップルのラインアップの中で最も販売台数が多い製品として売れ続けていました。

 結果は、700ドルを上回る平均販売価格にあらわれました。それまで550〜700ドルのレンジで推移してきた平均販売価格が、iPhone Xの投入により、一挙に800ドル近くにまで上昇したのです。結果、iPhoneの売上高は20%を超える成長を続けてきました。

 2018年は999ドルからのiPhone XS、1099ドルからのiPhone XS Max、749ドルからのiPhone XRがラインアップされました。廉価版ながら全画面のデザイン、TrueDepthカメラ、ポートレートモードを備える背面カメラなどを装備し、6色展開となった新モデルのiPhone XRが、販売の半数を占めるのではないか、とみられていました。

●iPhone XRは苦戦?

 ところが、そのiPhone XR向けにネガティブな情報がサプライチェーン方面から流れてきました。

 まずiPhoneを組み立てているFoxconnは、60に増やす予定だったiPhone XRの生産ラインを45にとどめるという情報がもたらされました。またTrueDepthカメラに必要なレーザーモジュールを製造する大手ルメンタム(Lumentum)は、「大口顧客から、著しい数の発注減少があった」として売上高の見通しを引き下げました。大口顧客とは、ルメンタムの3割の売上を締めるアップルのことでしょう。

 これらの情報から「iPhone XRは売れていない」「iPhoneの販売が低迷している」という予測が成り立ち、株価が更に売り込まれる結果となっていたのです。

 しかし、サプライチェーンからの情報だけでは、昨年のようなiPhone Xの好調さを見抜けなかった経験があります。今回の報道もアップル株に対しては大きな逆風となっていますが、株価が25%下がるほどの影響が決算に出ているかどうかは疑問が残ります。

●iPhone XSが売れていたら

 iPhone XRの増産計画を絞った点についても、理由を考えてみるべきでしょう。iPhone XR向けに45の生産ラインが確保されており、十分需要が賄えるという判断があったからでしょう。

 iPhone XRにはLiquid Retinaという、アップルが初めて採用するディスプレイ技術が使われています。そのため製造過程での効率性が低いことが考えられ、ラインを増やそうとしていたかもしれません。しかし効率性や歩留まりの急速な改善すれば、少ないラインでの製造が可能になるでしょう。

 レーザーパーツについても、ルメンタム以外にアップルが投資したフィニサー(Finisar)などのサプライヤーを確保しており、単純に発注の配分が変わった可能性もあります。サプライチェーンからの限られた情報は、こうした話が加味されていない可能性があるのです。

 また、もし上位モデルであるiPhone XS、iPhone XS Maxが好調で、そちらの割合が多かったらどうなるでしょう。次の決算からは販売台数が発表されなくなりますから、決算のサマリーから平均販売価格を求めることはできませんが、iPhone XRの生産ラインが減らされたことは、iPhone XSシリーズとの販売バランスが想定と異なっていたことも考えられ、それを調整した可能性もあります。

 つまり、実際に何が起きているのかを、サプライチェーンの情報から判断することは難しく、需要減以外の理由はいくつもあるのです。iPhone XS Maxが好調だった場合、iPhoneの売上高は更に勢いよく成長するかもしれません。

●それでも懸念は残る

 アップルは2017年のiPhone X投入で、平均販売価格の上昇にこだわり、スマートフォン市場全体の需要減、マイナス成長の時代への備えを万全に整えてきました。

 2018年通年の決算では、販売台数を維持しながら売上高を大幅に高める結果として、その成果が現れています。今後販売台数の維持が難しくなり、減少していくことを織り込んでいるのです。

 アップルは対策を済ませましたが、他のスマートフォンメーカーは現在でも薄利多売、あるいは赤字の状態で販売を続けていることを考えると、厳しくなっていくばかりでしょう。

 またアップルにパーツを納入しているサプライヤーは、高付加価値ビジネスへ移行できず、やはりiPhoneの製造台数に応じた売上のビジネスを脱することができないため、アップルと付き合っていてもスマートフォンの低成長時代に売上を伸ばすことはできないでしょう。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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