1995年から2014年までのウェブデザイン
プログラムの中で、ひときわ懐かしく、面白かったのは、ウェブのデザインに関する話でした。優れたウェブを毎年表彰しているThe Webby Awardの代表、Dabid-Michel Davies氏がふりかえった、ウェブデザインの変遷についてです。
たとえば1990年代のウェブの世界は、現在のような画像やビデオは見られず、のっぺりとした色の背景とセンタリングされた文字、そして「マーキー」タグと「ブリンク」タグの応酬で、横に流れたり点滅したりする文字……。表組みを行なうための「テーブル」タグを活用して、多少のレイアウトを組むようになったという段階です。
当時の“インタラクティブ”なコンテンツは、CD-ROMに収められたMacromedia Shockwaveとして流通していました。ウェブの表現力とShockwaveの表現力には歴然とした差がありました。そこに、FutureSprashが登場し、ベクターデータのアニメーションを非常に軽く実現する仕組みに注目が集まります。MacromediaはFutureSprashを買収し、Flashとして普及させました。現在はShockwaveもFlashもAdobeのブランドになっています。
ウェブにインタラクティブさとリッチな体験をもたらしたFlashでしたが、1つの壁にぶつかります。それはAppleのiPhoneです。Appleは、iOSで動作するiPhone/iPadを、Flashに対応させない決定をします。コンテンツ制作にオープンさがない、通常のHTMLよりも大きなバッテリー消費の問題を解決できない、アプリのように動作するFlashコンテンツが、AppleのApp Storeと競合するといった点が指摘されました。
現在のウェブサイトは、HTML5やスタイルシートが活用され、JavaScriptによって、十分な処理能力と表現力を手に入れています。
これからのウェブの課題についての議論
現在と未来のウェブはどうなるのでしょうか。
昨今の議論に、個人の情報の取り扱いに関する議論があります。非常に大きな話題となっている米国国家安全保障局(NSA)の元職員、エドワード・スノーデン氏による国家によるネットの情報収集活動の暴露以降、ネットの透明性と公平性に関して、多くのインターネットユーザーが、こうした問題を強く意識するようになりました。
カリフォルニア州に拠点を置く多くの大手テクノロジー企業、たとえばAppleやGoogle、Facebook、Twitterなどは、こうした情報収集の拡大に対して否定的な姿勢を取り、一定のガイドラインを求める動きもあります。一方で、国家あるいは地域の犯罪抑止にネットを活用することで安全な社会を目指すことに対する評価の声もあります。
パネルディスカッションでは、こうした個人の自由なネット活用の問題に加えて、ネットの仕様の分断に関する議論も行なわれました。
例えば、昨今モバイルデバイスによるアクセスが盛んですが、AppleのiOSをベースとしたiPhoneやiPadと、GoogleのAndroidをベースとしたスマートフォンやタブレットでは、利用できるアプリが異なり、また決済機能なども互換性が現在はない状態です。同じOSでもバージョンや端末の違いで、ウェブの挙動が異なることは本望ではないでしょう。
技術の普及は人々が最新のテクノロジーにどのようなスピードで浸透するかという問題に委ねられており、パソコンのウェブ以上に標準化によってできることの範囲は小さくなってしまっているかもしれません。AppleとGoogleが中心となって、モバイルウェブへの取り組みをより強化していく必要がありそうです。
(次ページでは、「生活基盤となったウェブの未来」)