GPSのブレイクスルーとこれからのモバイルインタラクティブ
バスキュールは2009年元旦に、メールで年賀状を送った人向けのコンテンツとして、ベコをUFOキャッチャーのように釣り上げることができるサイト「初ぶる」を公開した。
これはキャッチャーをケータイでコントロールして、魚の代わりに画面上の牛(ベコ)を釣る。パソコンの画面の中にたくさんいるベコを釣り上げると、ケータイの中に入ってくる。実はこのベコはおみくじになっており、運勢を占うことができる。そして、Gyorolでもできたように、釣った自分のベコを待ち受け画面に設定できるのだ。
「初ぶるは自主プロジェクトとして作りました。このときは、GPSデータを使って、どこでベコを釣り上げたのがが分かります。2000人に送ったメール以外ほとんど告知をしていなかったのですが、口コミで話題を呼び、約2万人がベコを釣り上げていきました。特にお正月のころは1~2時間もやっていたユーザーがいて、繰り返し遊んでもらえたようです」(白川氏)
このGPSデータを取得しながらUFOキャッチャーをしてもらった点は、1つのブレイクスルーがあった。どこから参加してくれたのかが分かる点が単純に面白いという以外に、モバイルビジネスに生かせるポイントもあったと言う。
「参加してくれたリアルな場所が分かったり、参加した証拠が場所に残ると、地域ごとの盛り上がり具合を広告主であるクライアントに見せることができるようになります。例えばべこの場合、沖縄まで到達するのは早かったですが、四国のユーザーへはなかなかリーチしなかったという傾向がありました。これは広告に生かせるのではないでしょうか。ウェブから見て、自分がどこから参加しているのかが可視化されることも大切だと思いました」(白川氏)
現在のネット広告の入り口の多くは依然としてパソコンから利用するウェブであり、モバイルはその補助的な役割を果たすことが多い。一方でバスキュールは、既存の関係性を崩した新しいコンテンツのあり方にリーチしつつある。
チョコマンの事例のようにアドホックにモバイル同士をつないだり、「リアルな巨大ビジョンあるいはウェブ」と「リモコンとしてのモバイル」という関係性の再構築により、長時間じっくりと、そして身近に存在し続けるインタラクティブコンテンツの可能性が開けてきた。
「例えば、Gyorolなら、釣った魚をリリースしたり待ち受け画面にしておしまい、ではなく、エサをあげて成長させていって、友人と交換したりしても良いと思います。また遊園地などのリアルな場所が限られているような場所の中で、待っている時間にケータイで遊ぶというコンテンツにもなります」(白川氏)
先般ご紹介したAdobeのOpen Screen Projectは、Flashをワンソースマルチユース可能なプラットホームへと成長させようとしている(関連記事)。またYahoo! JAPAN for AQUOSのように、ケータイをリモコンとして、パソコンやPCなどの違ったディスプレイをまたいで、自分のIDを活用するツールも揃ってきた(関連記事)。
ケータイをリモコンとして、現実空間やウェブ空間を活用できるようにする。iPhoneのモバイルハブと並行して活用できそうな概念は、すでに日本の中で動き始めている。
筆者紹介──松村太郎
ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性に付いて探求している。近著に「できるポケット+ iPhoto & iMovieで写真と動画を見る・遊ぶ・共有する本 iLife'08対応」(インプレスジャパン刊)。自身のブログはTAROSITE.NET。