松村太郎の「ケータイが語る、ミクロな魅力」

新たなケータイライフをもたらすソーラーケータイ (3/3)

文●松村太郎/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

2009年06月23日 12時00分

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電池はヘタらないのだろうか?
気遣いも厚く設計されている

 一方ソーラーケータイでは電池がヘタらないのかという点も気になる。しかし、中田氏も澤近氏も「ヘタることはないようにセッティングしてある」と自信を見せる。多結晶シリコンを使って高い出力を得られるソーラーパネルでは、充電する・しないをしっかりと制御する事によって、適切な充電環境を作り出しているのだ。

 一般的に電池の劣化は、高電圧をかけることや温度の変化に影響を受ける。高電圧の要素についてはソーラーパネルの特性などで大きな問題はないようだが、温度については注意が必要だ。通常の充電では劣化しなくても、高温状態で充電すると劣化しやすくなってしまう。

 「ケータイには元々温度センサーが入っていましたが、今回はソーラーで充電をするかしないか、という部分でも温度センサーが活躍します。発電には日光が必要です。しかし直射日光の下に置くと当然端末表面の温度は上がってしまいます。電池の保護と安全性の確保のため、高温の状態になると電池への充電を止めるようにしています」(澤近氏)

 風通しのいい屋外のカフェなのか、海の砂浜の上なのか、はたまたクルマのダッシュボードの上なのか。同じように直射日光が得られる場所であっても、周囲の環境に関係する端末温度によって、充電するかしないかを適切に制御する仕組みになっており、電池だけでなく、端末自体を危険な状態にしない配慮が施されている。

SH002のサブディスプレイ

SH002の電子ペーパーディスプレイは、電源ONの際は通常のサブ液晶として少しの光の下でもバックライトなしで高い視認性を誇る。また電源OFFにしても点灯していて、発電レベルを太陽のピクトで表現したり、現在の電池残量で何分通話できるかが一目で分かる。(□1つで1分通話、5個で5分以上の通話)

 またソーラー充電で得られる電圧の問題から、両端末とも75~80%ほど充電された段階で、電池への充電を止めるようにもなっているそうだ。そのため太陽光でのフル充電は不可能ではあるが、太陽の下にあればある程度のレベルにまでバッテリー状態を回復できるので実用上十分である。

 これまでのケータイ作りとの違いは、実際に端末にソーラーパネルを搭載しなければ、発電の特性や充電の具合、端末の温度の上がり方などのデータを取れなかった点だという。シミュレーションだけでなく、実機に近い試作機を何種類も作った上でのテストが必要で、実験には多くの時間をかけているそうだ。

 「端末を作って、評価する。これまでの経験則が使えるかどうかもわからないのです。新しいデバイスを入れるには多くの予測できないことが発生します。人工的に太陽光を作り出す装置や実際の太陽の下での実験で、スタッフは思いきり日焼けをしながらがんばっています」(澤近氏)

空を気にするケータイライフ

 最も効率よく発電するコツは、太陽からの光がまっすぐ端末のソーラーパネルに当たるようにすること。しかしこの太陽の光というのもいろいろある。

 小学校の理科の授業のおさらいのようだが、北半球の場合、夏至の太陽と冬至の太陽では地表で受けられるエネルギー量は違う。また晴れている方が条件がいいが、日本の気象での「晴れ」とは、空の8割を雲が覆っていても「晴れ」。太陽の光が直達するかどうかが発電効率に関係するのだ。

 またカフェで休憩するときにも、室内よりもオープンテラスを選んでケータイを机の上に置いてティータイムを過ごすようになるかもしれない。太陽エネルギーを存分に受けられる場所を探す。特に女性は、都市の生活では紫外線の問題で避けがちだった太陽光と、新たなカタチで向き合うチャンスなのかもしれない。

 近年、太陽活動は200年ぶりの停滞期に入っているという話を聞く。太陽活動と人間の活動、特に経済活動は連動しているという説を唱える学者もいる。地球に二酸化炭素があふれても、太陽光がなければすぐに寒冷化するのが我々が住む地球なのだ。

 シャープはソーラーケータイで「エコ」というキーワードでプッシュすることはないと言うが、太陽や地球環境のことを、空を見上げて考えるチャンスがたくさん生まれてくると、結果的にはエコを考えることにつながる。そんなきっかけとなるケータイは、日本ではすぐに手に入れられるのだ。

筆者紹介──松村太郎


ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性に付いて探求している。近著に「できるポケット+ iPhoto & iMovieで写真と動画を見る・遊ぶ・共有する本 iLife'08対応」(インプレスジャパン刊)。自身のブログはTAROSITE.NET


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