●懸念はむしろ、店舗側
App Clipsを飲食店に限って言えば、顧客に対してモバイルオーダーを促すことで、店舗での注文や支払いのやりとりをなくし、テイクアウトならピックアップだけのために店を訪れる形となり、店の滞在時間を極めて短くすることができます。
これは、既存の店舗では、忙しい時間帯の売上のネックをなくすことを意味します。例えば米スターバックスは、いち早くアプリを介したモバイルオーダーを取り入れることで、既存店の売上を毎四半期15%ずつ伸ばしていた期間がありました。
若干煩雑な注文を、ゆっくりもっさりとこなす店員がネックで、レジに行列ができたら負け、という世界。これをアプリ経由で注文を受けることで、店舗スタッフはドリンク作りに専念でき、売上が上がるというわけです。
これは大きなチェーン系の飲食店やファストフードだけでなく、たとえばサンフランシスコの金融街にある個人経営のおにぎり屋さんも同様です。昼休みの1時間にあわせて午前中におにぎりを作っておくのですが、売上のネックはレジで、1人に2〜3分かかってしまえば、1時間で20〜30人しか買ってもらえません。
そうした問題解決にモバイルオーダーは非常に有効で、App Clipsはより手軽にユーザーに使ってもらえる道を作り出すことになります。しかしながら、確かにApp Clipsはユーザーにとっては手軽ですが、個人や小規模ビジネスにとっては、結局アプリ開発というハードルが残ってしまいます。資金力やデジタルへの理解がなければ、アプリを活用してビジネスを効率化する土俵にすら立てません。
アップルは、アプリ対応できない店舗の淘汰を望んでいるのか、もう少し柔軟に街の中をモバイル対応していく方法を模索するのか、という別の問題が浮かび上がってきます。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
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