iOSやmacOSの進化が見えた! 「WWDC21」特集

アップルがハイレゾより空間オーディオを推す理由 (2/4)

文●本田雅一 編集●飯島恵里子

2021年06月10日 12時00分

「空間オーディオ」とは何か?

 “空間オーディオとは何か?”は、少々ややこしい話だ。なぜなら、アップル自身、この言葉の使い方に“揺らぎ”があるからだ。

 空間オーディオという名前が登場したのは昨年、AirPods Proをアップデートすることで実現できる“機能”あるいは“技術”という形で登場した。

 この時の“空間オーディオ”は、iOS 14やiPadOS 14とAirPods Proを組み合わせて使う場合に利用できる「ドルビーアトモスなどの立体音響をイヤホンやヘッドホンで楽しむ機能、あるいは技術」として紹介された。

1年前のWWDC20で「Spacial Audio(空間オーディオ)」は紹介された

 Apple TV+で配信されている映画やドラマ音声のうち、ドルビーアトモスなどサラウンド音声が提供されている作品の音声を楽しむために、動作する機能だ。利用できる場面は限られていたが、立体音響を再現する能力が高く、また頭の動きに応じて音が聴こえる方向が自然に変化するヘッドトラッキング機能も優秀で驚かされた人もいるはずだ。

 つまり、この時は「空間オーディオ=アップルの仮想立体音響技術」だった。

 ところがApple Musicで「ドルビーアトモスを使って配信される、立体音響で配信される楽曲」のこともアップルは空間オーディオと呼んでいる。例えばアップルのニュースリリースでは“ドルビーアトモスを用いた空間オーディオの提供を開始”といった書き方がされている。

 この場合の空間オーディオとは、オブジェクトオーディオのフォーマット(ドルビーアトモス)を使って、音源トラックや効果音を三次元空間に割り付けながら制作した音楽そのものということになり、当初のニュアンスや指し示していた技術とは違うものになっている。

 さらに、現在開催中のWWDC 2021では、アップルのさまざまなデバイスで“空間オーディオ”が再生できることも明らかになった。次期macOSではMacの内蔵スピーカーでも空間オーディオが楽しめるようになるほか、iPhone、iPadの内蔵スピーカーでさえ空間オーディオに対応するという。

 ここでの文脈は、「アップルデバイスはすべて仮想立体音響技術で空間オーディオが楽しめますよ」ということなので、やはり仮想化技術のように思える。

 ただ、次のように考えれば腑に落ちるかもしれない。アップルとしては「空間オーディオ」を「モノラル」や「ステレオ」と同じような言葉として定着させたいのだろう。空間オーディオの考え方は、ソニーが360 Reality Audioとして展開してきたものとほぼ同じだが、アップル、ソニーの両社に共通する主張は、これが新しい音楽表現の形になるということ。

 そういう意味では「このデバイスで空間オーディオは聴けるの?」とか「この曲って空間オーディオでも聴けるんだっけ?」「俺のイヤホンは空間オーディオの再現性、結構イケてるよ」なんて感じの使い方でいいのかもしれない。

 しかし、記事を書いていると実にややこしいので、アップルには仮想立体音響を実現する独自の技術(ヘッドトラッキングを含む)については、別の名前、あるいはブランドを与えて欲しいものだ。

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