鈴鹿サーキットで4キャリアが電波対策バトル! 回線もレースも速いほうがいい

文●スピーディー末岡 編集●ASCII

2025年04月30日 12時00分

圏外なのは過去の話
今のサーキットはどこでも5Gが繋がる

鈴鹿サーキット

 日本で有名なサーキットといえば、西の鈴鹿サーキット、東の富士スピードウェイ。どちらも世界的なレースから草レースまで、多種多様なモータースポーツに対応するサーキットだ。規模も大きく、とくに鈴鹿サーキットは、今年のF1で26万人もの動員を記録した。

 最近では、レース観戦スタイルが変化しており、リアルタイムに情報を知れるアプリや、レースの配信を見ながらが当たり前。とんでもない量のデータがサーキットを飛び交っているのだ。たとえば、F1のときには26万人が同時にスマホを使ったと考えると、サーキットの電波対策がいかに重要かがわかる。

 これまでは「サーキットは電波が繋がらない」と言われていた。事実、10年くらい前までは4Gどころか3Gも入らない場所もあった。もしくはサーキットの場所によって入る入らないがあったのだ。しかし、4G時代からアンテナなどの整備が進み、鈴鹿も富士もサーキット内のどこでも電波が繋がるようになった。

 それでもビッグレースのときは移動基地局車を導入していたのだが、今年のF1日本グランプリ(鈴鹿サーキット)では、移動基地局の出番はなかったという。年々動員が増えているF1だが、もはやアンテナの整備だけで、レースウィークのトラフィックをさばけるようになったようだ。果たしてどんな対策をしたのか、ドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルに聞いた。

7つのアンテナを設置し、ミリ波対策も
ドコモの場合

 2023年のF1日本グランプリでは「電波が繋がらない」と不満の声が多かったドコモ。その反省を活かして昨年、そして今年と大幅な対策を打ってきた。

現在のドコモの5Gエリアマップ。ミリ波のアイコンが見えるのがグランドスタンド

対策班として鈴鹿サーキットに来て調整をしたドコモ ネットワーク部のみなさん

 まず、サーキット内に7つの基地局を設置し、サーキット内のエリアを細かく分割した「極小セル化」で、ひとつひとつのエリアの通信容量を増加させた。そして多数のアンテナを使い、複数のユーザーに同時に通信を行なう技術の「マルチユーザーMassive MIMO」と「5G SA」(スタンドアローン、5G専用装置のみで5G通信ができる)を基地局に搭載することで、多くのアンテナによって電波の発射方向を細かく制御、一度に送受信できるデータ量を飛躍的にアップさせたとのこと。

 実際、サーキットのあちこちにアンテナが建っていたのが確認できた。

コースサイドにも!

グランドスタンドの階段にも!

 そして、観客が一番集まるグランドスタンドにはミリ波のアンテナを建てて対策。もちろん、ミリ波対応端末が限られるが、対応端末を持っているなら非常に快適だろう。

 これらの対策により、2023年と比べると約4倍近い容量増強になったという。

サーキット全域が5G サブ6エリアに
auの場合

 今年の初頭までは鈴鹿サーキットの西側が4Gエリアだったau。最近モータースポーツに力を入れているauだが、電波対策も抜かりなかった。F1日本グランプリ直前には西エリアも5Gエリア内になっており、移動基地局の出番もなかったという。

現在のauの5Gエリア。今年3月から一気に範囲が広がり、サーキット全域をカバーした

 サーキットでは動画を見ながらの観戦がスタンダードなので、そのユースケースに対応できる容量対策を実施。サーキット全域で、ファンがどこで観戦していても5Gを利用できるように対策したとのこと。

新たに建てられたアンテナ

 基地局を新設したり、容量設計を見直したりといった対策のおかげで、鈴鹿サーキットでは移動基地局や臨時アンテナを使わずとも、26万人が快適にスマホを使えたようだ。

ミリ波のアンテナをスタンドに設置
ソフトバンクの場合

 ソフトバンクは実は昨年から鈴鹿サーキットでは5G SAを使えるようにしていたが、今年はその範囲を鈴鹿サーキット全域にまで広げてきた。さらに技術部の話によると、「昨年LTEで使っていた周波数の一部を5Gに転用させたので、帯域幅が広がった」とのこと。

現在のソフトバンクの5Gエリア。昨年からほぼ全域はカバーしていたとのこと

今回の対策を現地で解説してくれた、ソフトバンク エリア建設本部のみなさん

 さらにグランドスタンドでは、多くのファンが集まり、さらにみんなスマホで動画などを見るので、このトラフィックに対応すべく、ドコモ同様、ミリ波のアンテナを客席に向くカタチで設置していた。

ミリ波のアンテナがグランドスタンドのホームストレート寄りに設置されていた

 5Gの基地局の新設および既設基地局の増強工事を実施し、各基地局から発信される電波の強さ・品質などをチェックするなど、サーキット内を歩き回ってデータを取得し、電波のチューニングをしたソフトバンク。今年のF1のときも「ソフトバンクがよく繋がる」との声を耳にした。

一部移動基地局車の出番も
楽天モバイルの場合

 楽天モバイルは鈴鹿サーキットに光回線を敷設し、移動基地局車を配置するという対策を行なった。他キャリアの対策に比べるとやや弱いように見えるが、楽天モバイルは鈴鹿サーキットは全域で5G対応エリアになっており、西側以外はミリ波エリアでもある。

現在の楽天モバイルの5Gエリア。やや西側が弱いが、サーキットのほぼ全域が圏内になっている

 F1以外のモータースポーツでも電波の心配はなさそうだ。

【まとめ】鈴鹿サーキットの圏外はなくなった
ほかのサーキットの対策もお願いしたい

 モータースポーツは現場にいながらリアルタイムの配信を見る、という観戦スタイルがスタンダードになっている。なぜかと言うと、サーキットは広いのでどこで誰が走っているかを目視できないからだ。だからリアルタイム位置情報を表示してくれるアプリや、実況の声が聞こえる動画配信など、複数の情報を得ながら観戦するのである。

昨年の移動基地局車の様子。今年も使った、持って来たけど使わなかった、そもそも持って来ていないと、キャリアの対応はそれぞれだった

 そして、参戦しているチーム側も、さまざまなデータのやり取りがあるので、独自に光回線を敷いているチームや、Starlinkを導入しているチームもあるくらい。何万人が同時にこれだけトラフィックを使うという、電波にとって非常に過酷な場所がサーキットだ。

 そんな過酷な環境で電波を使ったレース(対策)をしているのが、4大キャリアだ。サーキットの路面では時速300kmのマシンが限界のレースをしている中、空には電波が飛び交い、繋がりにくいと言われないよう、各キャリアの技術者たちがしのぎを削っているのである。

 もう少し要望を言わせてもらえれば、鈴鹿と富士以外のサーキットの電波対策をお願いしたい、ということ。日本にはまだたくさんサーキットがあるのだから。

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