またもや富士フイルムからちょいと面妖なカメラが出るのである。その名も「X half(X-HF1)」。
ハーフサイズフィルムのコンパクトカメラ(それをリアルに知る人はそれなりの年齢の人になると思うけど)をモチーフにしたデジタルカメラ。知ってる人は「ああ、あれか」と思えばいいし、そうじゃない人は「イメージセンサーが縦位置に入っていて、普通に撮ると縦位置の写真を撮れるカメラ」と思えばいい。縦位置撮影に慣れてる人にはめちゃ普通科もしれないし、フィルムカメラ時代に育った人にはめちゃ懐かしいかもしれない。
しかもレンズは単焦点で、富士フイルムならではのいろんなフィルムシミュレーションが使えたり、instax Evo(カメラ部分がデジタルになってるチェキだ)が搭載してるいろんなフィルターが使えて、カメラといえばデジタルな人には新鮮でエモい写真が撮れ、フィルムカメラで育った人には懐かしい感覚を味わえる、世代によって違う楽しみを味わえる妙なカメラなのである。
そんなカメラを持ってエモい写真でも撮れないかと街をブラブラしていると、都会の裏通り、住宅街の狭い道路の向こうに黒猫がちょこんと座ってたのである。ズームもないこのカメラで猫を撮るにはちと遠いな、と思いつつ目を合わせると、なんととことことこちらへ歩いてくるではないか。人なつこいにもほどがある。
そして目の前にごろんと転がったのだ。思わず、その時セットしていたモノクロのフィルムシミュレーション「アクロス」で1枚。
撫でてやると、気持ちよさそうにしてくれるのだった。首輪がついてるので飼われているのだろう。このあたり、古くから住んでる人が多く地元の人しか通らないし、車もあまり入ってこないので猫ものんびりしてるのだ。
黒猫ついでにうちの黒猫も。マットを敷いてあるのだけど、ブラッシングしてやると気持ちよくてすぐマットをぐちゃぐちゃにしちゃうのだ。そんな臨場感を狙ってみた。
そして、満足げにしてるところを1枚。オレンジ色の光がかぶってるのはライトリークというフィルター。なんらかの隙間から光がはいっちゃって、不自然に露光しちゃうというフィルム時代の(もっとも、まっとうな状態のカメラを普通に使っているなら起きないのだけど)事故をデジタルで再現したもの。わざとこうしてやると、なんとなくエモくならない?
もちろん普通にきれいに撮ることもできる。フィルムシミュレーション「ベルビア」で撮った猫を最後に2枚。
このX half、思うままにラフに撮るのが楽しい。ブレようがちょっとタイミングや構図やフォーカスがずれようが……デジタル一眼でそれやるとつい「あ、失敗した」と思っちゃうのだけど、このカメラだとそう感じがしないのが不思議だ。
フィルムカメラで育った我々の世代と、デジタルカメラやスマホのカメラで育った若い世代では感じ方が違うカメラなんじゃないかという気がしてるのだけど。
そうそう、エモい写真エモい写真、と書いちゃったけど、エモい猫写真ってどんなんなんだろうね。わたしが感じるエモい写真と、世間で言うエモい写真が一緒なのかどうかわからないのだけど、たぶん、1人1人の中に自分のエモさがあればそれでいいのだ。
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筆者紹介─荻窪 圭

老舗のデジタル系フリーライター兼猫カメラマン。今はカメラやスマホ関連が中心で毎月何かしらのデジカメをレビューするかたわら、趣味が高じて自転車の記事や古地図を使った街歩きのガイド、歴史散歩本の執筆も手がける。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『古地図と地形図で楽しむ東京の神社』(光文社 知恵の森文庫)、『東京「多叉路」散歩』(淡交社)、『古地図と地形図で発見! 鎌倉街道伝承を歩く』(山川出版社)など多数。Instagramのアカウントは ogikubokeiで、主にiPhoneで撮った猫写真を上げている。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/