ソニーはXperiaブランドの新製品「Xperia 10 VII (エクスペリア テン マークセブン)」を発表し、メディア向けの体験会も開催した。本機は、ミドルレンジという位置づけながら、フラッグシップである1シリーズに準ずる「Xperiaらしさ」を目指し、デザインやカメラ、オーディオ機能など多岐にわたる刷新が図られている。これまでのモデルからワンランク上がったと評される本機の詳細を、体験会の内容をもとに解説する。
デザイン刷新と操作性を両立する「即撮りボタン」の新搭載
最も大きな変化は、デザインの全面的な刷新である。従来の縦型カメラレイアウトから横型レイアウトに変更することで、背面がすっきりとした印象となった。カラーバリエーションはチャコールブラック、ミスティホワイト、ターコイズの全3色で、いずれも新色だ。
デザインの刷新は見た目だけでなく、ユーザー体験の向上にも寄与している。特に注目すべきは、Xperiaシリーズの象徴ともいえるシャッターボタンが「即撮りボタン」として新たに搭載された点。これは単なるシャッターボタンではなく、ポケットから取り出しながらでも画面を見ずにカメラを起動し、即座に撮影できることを目指したものだ。
フラッグシップの「Xperia 1」シリーズが横持ちでの本格的な撮影体験を重視し、半押しAFなどに対応しているのに対し、Xperia 10 VIIでは縦持ちで手軽に「パッと撮る」体験を重視している。そのため、半押しやAFロック機能は非対応とし、ボタンの位置も縦持ちで撮影しやすいよう少し上部に配置された。さらに、ボタン長押しでカメラ起動、短く押すことでスクリーンショットが撮れる機能も追加され、日常のメモ代わりに活用するユーザーのニーズにも応えている。
暗所性能が飛躍的に向上したカメラ
カメラ機能も大幅に進化を遂げた。ミドルクラススマホにおける課題だった「暗所での撮影」や「ピンボケ写真」を減らすため、広角カメラには1/1.56インチの大型センサーを搭載した。これはフラッグシップモデルに迫るサイズであり、従来のモデルと比較して低照度下でのノイズ感が大幅に低減している。
これまではノイズを目立たなくするために解像感を下げていた部分も、ディテールを維持したまま鮮明な撮影が可能になっている。超広角カメラも1/3インチセンサーへと大型化し、画質が向上した。
撮影後の体験も重視されており、誰でも簡単に思い出を動画にできる「Video Creator」や、撮影時にルック(テイスト)を変更できる機能を引き続き搭載している。撮るだけでなく、編集・共有まで含めたトータルなカメラ体験をサポートする。
コンテンツ視聴体験を高めるディスプレーとオーディオ
ディスプレーは、従来の21:9から新たに「19.5:9」のアスペクト比を採用した。これにより、16:9の映像コンテンツを視聴する際の表示面積が13%拡大。TVerをはじめ、動画視聴時間が増えているユーザーの利用実態に合わせ、より快適な視聴体験を提供する。
ウェブブラウジング時も文字や画像の表示にゆとりが生まれ、見やすさが向上した。さらに、シリーズ初となるリフレッシュレート120Hzに対応し、スクロール時の表示がより滑らかになった。
オーディオ面では、フロントステレオスピーカーが進化した。左右のスピーカーユニットをエンクロージャー(箱)で包む構造を採用することで、筐体の不要な振動(ビビリ)を抑制し、クリアで一体感のある力強いサウンドを実現した。ワイヤレスイヤホン利用時も、Bluetoothの送信電力を2倍に強化し、駅などの混雑した場所でも途切れにくい接続性を確保している。さらに、通信環境に応じてビットレートを自動調整する「aptX Adaptive」にも新たに対応し、音質と接続安定性を両立させた。
4年使える安心感と快適なパフォーマンス
本機は長期間安心して使える点も大きな特徴である。4年後もバッテリー容量80%以上を維持する長寿命バッテリーに加え、OSバージョンアップは最大3回、セキュリティアップデートは最大4年間提供されることが明言された。
パフォーマンス面では、チップセットに「Snapdragon 6 Gen 3」を採用し、メモリーも従来の6GBから8GBに増強した。ストレージは128GBのみ。複数のアプリ利用やAIを活用した検索など、高まる負荷に対応し、日常的な利用において十分な性能を確保している。
【まとめ】ミドルクラスの「最適解」を追求した意欲作
Xperia 10 VIIは、単なるスペックアップにとどまらず、ミドルクラススマホのユーザーが真に求めるものは何かを深く考察し、デザインから機能まで大胆な刷新を断行した意欲作と言えるだろう。
象徴的だった21:9比率のディスプレーや縦型カメラデザインからの変更は、一部のファンにとっては寂しいかもしれないが、それは「Xperiaらしさ」というブランドの思想を、時代の変化やユーザーの利用実態に合わせて再定義した結果である。
即撮りボタンの搭載は、日常の瞬間を逃さず手軽に記録したいというニーズへの的確な回答であり、大型化したカメラセンサーはミドルクラスモデルの弱点を克服する大きな一歩だ。そして、4年間安心して使えるサポート体制は、高価なスマートフォンを長く大切に使いたいという現代の価値観に完璧にマッチしている。
派手なAI機能を前面に押し出すのではなく、ユーザー体験を向上させるための「手段」として技術を用いるソニーの哲学は、本機にも色濃く反映されている。Xperia 10シリーズの美点である「ちょうどいいサイズ感」と「軽さ」を維持しつつ、あらゆる面で「ワンランク上」の体験を実現した本機は、多くのユーザーにとって新たな「最適解」となる可能性を秘めた1台と言える。