日本でも発売になったシャオミのスマートフォン「Xiaomi 15T」シリーズは高性能なカメラや高速CPUを搭載するだけではなく、AI機能も強化されたスマートフォンだ。シャオミは今後スマートフォンにAIをどのように搭載していくのか、またグーグルはシャオミとどのように協業を進めていくのか。
Xiaomi 15Tシリーズの発表会で、シャオミのシニアプロダクトマーケティングマネージャーであるTerrence Xiao氏と、グーグルでGeminiを担当するZaheed Sabur氏にインタビューをした。
XiaomiとGoogle Geminiの深まる連携
──まず、Xiaomi 15Tシリーズの開発における両社の協力、特にGeminiとの共同開発はどの程度深く行なわれたのでしょうか? また、最大の課題は何でしたか?
Sabur氏(グーグル) グーグルはシャオミのスマートフォンにGeminiアプリを搭載するに際し、シャオミのAIアプリとの統合を行ないました。これによりユーザーがXiaomiデバイス上でGeminiを使用する時、Geminiが本質的なパーソナルアシスタントとして機能します。またそこからシャオミのNotesアプリに何かを保存したり、アラームを設定するということが可能になります。
この統合が深まれば深まるほど、スマートフォンはパーソナルアシスタントとしてより強力なデバイスになります。グーグルはユーザーがシャオミのデバイス上でよりシームレスにGeminiアプリを使用できることを望んでいますし、シャオミ側もGeminiアプリとシャオミ側のアプリでシームレスな体験を提供することを目標としています。シャオミとのパートナーシップは双方にとって有益なものなのです。
──AI使用時の安全性とプライバシーについて、両社はどのように取り組んでいますか? データがデバイスに残る部分とクラウドに送られる部分の線引きはどうなっていますか?
Xiao氏(シャオミ) ユーザーの機密データに関する安全性とプライバシーは、シャオミにとって非常に大きな優先事項です。これは新しいHyperOS 3に限らず、当社のスマートフォンのOSの初期バージョンから注力しています。たとえばシャオミのスマートフォンと他のシャオミデバイス、そしてアップルデバイスとの相互接続機能のために開発した「MITセキュリティプロトコル」を活用したセキュリティ保護など、OSのさまざまな側面で具体的なプライバシー機能を組み込んでいます。生体認証データの保護も強化しています。
Sabur氏(グーグル) Android全体でも、グーグル側で多くのセーフティーガードレールを設けています。Geminiアプリでもユーザーは常にデータを管理下に置いています。ユーザーは共有したいデータを選択したり、ユーザーアクティビティをオフにできます。ユーザーにとって、安全性こそが製品の中で最も重要な価値を持ちます。プライバシー対策は常に最優先事項として対策をしています。
AIの進化とパーソナルアシスタントの未来
──現在のシャオミの製品ラインアップでは、文章作成や画像編集といったシャオミ独自のAIツールと、パーソナルAIアシスタントとして機能するGeminiが「二つの分離したシステム」のように感じられます。真にインテリジェントで包括的なパーソナルアシスタントの実現まで、どれほどの距離があると考えますか?
Sabur氏(グーグル) これは我々も頻繁に自問しています。AI進化の動きは速く、ユーザーにとって最善の価値がどこにあるかを、正確に予測するのは難しい状況です。しかし重要なのは、ユーザーが目指す方向へ我々も舵を向けていくということです。
デジタルアシスタントや音声アシスタントというコンセプトは、過去10年間存在しましたが、ようやく今日、そのビジョンを実現できる技術が登場しました。AIが特定の狭いユースケースで優れている部分は継続する必要がありますが、将来的にはそれらすべてが1つまとまる機会があると考えています。
ただし、それを強制するのではなく、ユーザーが価値を見出した場合に進めるものです。我々が正しいと信じるものを押し付けるのではなく、ユーザーとともにこの進化を進めていきたいと考えています。
──AI機能は今後、どのように収益化されていくのでしょうか。ほとんどのAI機能は無料で提供されるのでしょうか、それとも近い将来、課金されるようになるのでしょうか?
Sabur氏(グーグル) AIの最も素晴らしい点は、まだ限界点がどこにあるかわからないことです。我々は体験をより価値あるものにする方法を模索している最中です。それと同時に、特定のタスクを実行するためのコストは、以前よりも大幅に低下しています。
現状ではAIに関して最大の優先事項は「どう収益化するか」ではありません。最大の優先事項は、ユーザーにとって価値のある製品をどう提供するかです。もし我々が、そのような価値を生み出すことができれば、収益化の部分はユーザーとビジネスの両方に利益をもたらす形で解決すると確信しています。
Xiaomi 15Tシリーズの戦略
──今回発表されたXiaomi 15Tシリーズで最も優れている機能・性能を5つ挙げてください。
Xiao氏(シャオミ) まず個人的にエキサイトだと思えるアップグレードは新しい望遠レンズです。プロレベルの望遠撮影体験をTシリーズにもたらしました。そしてバッテリー駆動時間も進化しました。5500mAhという寿命の長いバッテリーを搭載しています。さらに新たにサポートされるHyperOS 3により、グーグルのGemini AIの新機能のサポートやOS体験の向上を図りました。
さらに大きくなったディスプレーは、この価格帯の製品として十分な大きさを提供しています。最後に新しいプロセッサーの搭載もユーザー体験を大きくアップグレードしていると思います。
──Xiaomi 15T ProにはDimensity 9400+、Xiaomi 15TにはDimensity 8400 Ultraという、MediaTekのチップセットを選択した理由を教えてください。
Xiao氏(シャオミ) チップセットの選択については、市場での入手可能性と、提供できる最高のパフォーマンス体験のバランスを考慮しました。Tシリーズは前世代もMediaTek製チップセットを使用していましたが、非常に優れた性能を発揮しています。
我々は「数字上の最高のスペック」を追いかけるよりも「全体的なユーザー体験」を優先しています。高品質な写真や動画を撮影したり、必要な時に負荷の高いタスクを実行したり、高画素のディスプレーを動かし続けたりするなど、パフォーマンスの目的はスマートフォンの体験をサポートすることなのです。
──5500mAhというバッテリー容量は、他の競合デバイスと比較して小さいという見方もあります。また、非常に薄型であるにもかかわらず、シリコンカーボン系バッテリーが採用されなかったのはなぜですか?
Xiao氏(シャオミ) 確かに現在、ほかのスマートフォンがシリコンカーバイドなどの新技術を使い、巨大なバッテリー容量を打ち出しているのは事実です。しかし、繰り返しますが我々にとっての優先事項は常にユーザー体験なのです。スペックだけを見れば5500mAhは最大ではないかもしれませんが、我々のテストでは、Xiaomi 15T Proのバッテリー寿命性能は前世代と比較して約30%の改善となる、15.2時間の連続使用を達成しています。
より大きく強力なバッテリーは、設計上、熱発生やデバイスのサイズ、重量など、システムのほかの側面に制限をもたらします。そのため今回はこのバッテリーの搭載がXiaomi 15Tシリーズにとって最適であると判断しました。
また、このバッテリーは1600回の充電サイクル後もバッテリーが80%までしか劣化しないという認証を取得しています。これは日常的な使用で約3~4年に相当し、業界標準以上の性能を誇ります。
── 今回グローバル市場で初搭載となる「オフライン通話」機能について(電波がなくても対応するシャオミ端末同士なら通話ができる機能)、これはXiaomi 15Tシリーズだけの機能ですか? それとも将来的に古いデバイスにも展開されますか?
Xiao氏(シャオミ) この機能には特定のソフトウェアとハードウェアの要件があるため、現時点ではXiaomi 15Tシリーズのみでサポートされています。しかし、将来的にはより多くのシャオミデバイスに導入される予定です。古いデバイスへのアップデートについてはハードウェア要件があるため、開発サイクル次第であり、具体的な回答はまだできません。
──今後の製品展開の話になりますが、フリップ型など折りたたみ式スマートフォンのグローバル展開や、MagSafeのようなマグネット機構をデバイスに搭載する計画はありますか?
Xiao氏(シャオミ) フリップ型デバイスをグローバル市場で発売しないという計画は現時点ではありません。具体的な時期は未定ですが、可能性はあります。
またマグネットの搭載については、グーグルの新しいPixelシリーズが「Pixel Snap」を採用していることも承知しています。現時点では、この機能を将来的に含めるかどうかについてコメントすることはできません。しかし、我々はユーザーから多くのフィードバックを受けており、製品設計において今後の検討項目に上がっていることは間違いありません。
【まとめ】AI進化の過渡期における製品哲学
インタビューから読み取れるのは、両社が単なるスペック競争から脱却し、AIのシームレスな統合と長期的なユーザー体験の最適化に焦点を当てている点です。グーグル担当者Sabur氏が強調したように、AI進化が速い中で、ユーザーにとって最善の価値がどこにあるかを正確に予測するのは難しく、「強制するのではなく」ユーザーが価値を見出した方向へ舵を切る というアプローチは、AI技術の普及において極めて重要です。
シャオミは、チップセット選択で「数字上の最高のスペック」ではなく「全体的なユーザー体験」を優先し、5500mAhのバッテリーが熱発生やサイズを最適化する最良の選択であると判断しました。また、このバッテリーは1600回の充電サイクル後も80%の容量を維持する耐久性を持っています。安全性とプライバシーを最優先事項とする取り組みと合わせ、Xiaomi 15Tシリーズは、真のパーソナルアシスタント実現に向けた、戦略的にバランスの取れた過渡期の製品哲学を体現していると言えるでしょう。
































