松村太郎の「ケータイが語る、ミクロな魅力」

ワカモノにホンモノを「823SH」 (2/3)

文●松村太郎/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

2008年05月01日 18時00分

プリントと見間違えるほどの緻密さ


 「JAPAN TEXTURE 漆」は、300年以上の歴史を持つ京の老舗「象彦」とのコラボレーションになる。

 桜花以外は、「薫風」「市松白檀」「光珠水白檀」「猫」「松唐草」というラインアップだ。漆らしい黒と赤のカラーリングのパネルだけでなく、金や銀の蒔絵を施したもの、あまり漆塗りには出てこない猫も意外性があってかわいいし、上品な琥珀色と黒の市松模様も印象的だ。

市松白檀

漆の「市松白檀」。漆黒と何とも上品な茶色、そして微妙なテクスチャーをぜひ味わってほしい

猫

漆の「猫」。あまり漆塗りで見たことがなかった猫も、この赤と黒の漆らしいコントラストの中でかわいらしい

 今回、JAPAN TEXTUREを企画した、ソフトバンクモバイルプロダクト企画部デザイン課課長、浦元芳浩氏にお話をうかがったところ、象彦さんにお願いに行く際「断られることを覚悟していた」が、むしろ「やりましょう」と積極的な返事をもらったという。

 ケータイは工業製品だが、落下試験や正常な動作など、特に厳しいチェック管理がされている電子機器でもある。これと手作りの伝統工芸とのコラボレーションは、実は工業製品側が学ぶところが多かった、と浦元氏は言う。

 漆塗りのパネルの出来映えは、「プリントではないか」と手作りであることを疑うほど、精度の高いものだったそうだ。特に草木などの細い線は、継ぎ足し継ぎ足しで描きながら、まるでひと筆書きのように仕上げており、その緻密さに驚かされる。

 手作りならではの味も出ている。検品の際、想定していた色と違う色で仕上がってきて「これはいったいどういうことなのか?」と問い合わせたところ、「時間がたつにつれて色が落ち着いてくるので、それを考えてこのあんばいにしてあるのだ」と返されたという。

 経年変化を考慮して、検品時とお客さんの手に届くときの色味の調整をする。モノがどのようにして人の手に渡るのか、どのようにして人に使われるのか。そこを考えながら作られているのが、伝統工芸の世界なのだ。



角のふくらみをいかに折りたたむか


 もう一方の「JAPAN TEXTURE 友禅」は、京友禅「木村染匠」との協業になる。こちらは「梅輪葉 黒」「梅輪葉 茜」「乱菊 朱」「乱菊 浅葱」「花鳥風月 白茶」「花鳥風月 銀鼠」の6種類で、非常に細かい色や柄が魅力的だ。

 パネル上に直接描く漆塗りと違って、織物はふくらみを持たせたままパネル上に貼り付ける。その際、ポイントになるのが角の部分だ。丸く落とされたパネルの角にそって織物をたたみ、かつ角が膨らまないように加工する技術は脱帽モノだろう。このようにして工業製品では難しいと思われている技術が、伝統的な技によって可能になっていることを思い知らされる。

梅輪葉

僕の一番のお気に入りの友禅は「梅輪葉」。真っ黒の背景に細かい白、そして輝く梅の花が非常に素敵だ

乱菊(朱)

友禅の「乱菊(朱)」。非常に優しい朱色は、とても癒される一方で、細かい繊細な菊の花は刺激的だ

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