なぜ、電圧を上げると充電速度が上がるのだろうか。
まず「電力=電圧×電流」という式を思い出してほしい。電圧と電流のうちのどちらかを上げると、供給電力が大きくなる。
これまでの急速充電規格は、USB標準の2.5W(5V/500mA)のうち電流を上げる方向で進化してきた。結果、Quick Charge 1.0の10W(5V/2A)にまで到達している。だが、micorUSBケーブルの端子は多くの電流を流せる設計ではなく、さらに3Aや4Aと電流を増やすと端子やケーブルが抵抗となって熱を持ち、最悪事故につながる可能性がある。よって、従来のmicroUSBケーブルのまま電流を増やす方向の進化は頭打ちになった。
そこで次に進化したのがQuick Charge 2.0だ。この規格は5Vに加えて9Vと12Vといったより高い電圧での電力供給に対応している。対応充電器とスマホを接続することで、最大18W(9V/2A)とQuick Charge 1.0の10W(5V/2A)よりも多くの電力を供給できる。
Quick Charege 3.0ではこの仕様をさらに進化させ、5V~12Vの間で200mV単位で電圧を変化できるようになった。これにより、スマホ内部の充電回路やバッテリーの充電状況に合わせた最適な電圧を送り続けることで、充電時に必要な変圧の電力ロスを抑えられる。
今回テストした「Xperia XZ」ではQuick Charge 3.0とQuick Charge 2.0で充電時間にほとんど違いはなかったが、今後充電周りの設計がよりQuick Charge 3.0に最適化された端末が出てくれば、充電速度に大きい差が出ることもあるだろう。
今までのこれからの急速充電規格をチェック
ここまでQuick Chargeだけでも3.0、2.0、1.0と出てきたうえにUSB Type-Cの急速充電なども気になるところだろう。そこで、現在主流の主な充電規格をおさらいしよう。
■これから普及が加速する充電規格
充電規格 | スマホ側の主な端子 | 最大電力、または主な充電器が対応している電力仕様 |
---|---|---|
QuickCharge 3.0 | USB Type-C | 24W(3.6~6.5V/3A、6.5~9V/2.7A、9~12V/2A)など ※規格としては20Vにも対応 |
USB Type-C | USB Type-C | 標準7.5W(5V/1.5A)、最大15W(5V/3A) |
USB PD (Power Delivery) | USB Type-C | 100W(20V/5A)、60W(20V/3A)、45W(15V/3A)、27W(9V/3A)など |
■すでに広く普及している充電規格
充電規格 | スマホ側の主な端子 | 最大電力、または主な充電器が対応している電力仕様 |
---|---|---|
QuickCharge 2.0 | microUSB USB Type-C |
18W(5V/2A、9V/2A、12V/1.5A)など ※規格としては20Vにも対応 |
QuickCharge 1.0 | microUSB | 10W(5V/2A) |
USB BC(Battery Charging) | microUSB | 7.5W(5V/1.5A) |
USB | microUSB | 2.5W(5V/500mA) |
現在、クアルコム製のSoCを採用したスマホを購入した際、多くの端末が対応するのがQuick Charge 2.0だ。急速充電を利用するには、Quick Charge 3.0またはQuick Charge 2.0対応の急速充電器を買えば良い。
一方で、低価格帯のスマホはQuick Charge 1.0またはUSB BC(Battery Charging)のみの対応がほとんどだ。とはいえ、低価格モデルはバッテリー容量が2000mAh前後と少ないこともあり、そこまで問題になることはないだろう。
なお、SIMフリースマホなどでファーウェイ製端末の多くに搭載されているKirinや、MediaTek製のSoCを採用したスマホは、ハイエンド端末であっても基本的にクアルコムの規格であるQuick Chargeに対応していない。MediaTekには「Pump Express」という独自の急速充電規格があるが、国内のMediaTek製SoCを対応モデルや対応をうたったモデルはほとんどない。
これから普及する急速充電規格
2016年の後半になって、USB端子がmicroUSBから高速かつ裏表どちらにも挿せるUSB Type-C端子の普及が加速しつつある。
■USB Type-C
USB Type-Cは新しい仕様ということもあり、当初から15W(5V/3A)の急速充電に対応できる仕様となっている。たとえば、グーグルの「Nexus 5X」や「Nexus 6P」はQuick Chargeに対応していない代わりに、USB Type-Cの15W(5V/3A)の急速充電に対応している。
■Quick Charge 3.0
Quick Charge 3.0は前述のとおり、Quick Charge 2.0を改良した急速充電規格だ。特にUSB Type-C専用というわけではなく、microUSBなど他のケーブルでも対応機器なら急速充電できる。ただ、クアルコムのSoCでもUSB Type-C対応とQuick Charge 3.0対応が近かったことから、現在発売されているスマホの多くは、USB Type-CかつQuick Charge 3.0対応となっている。
規格上はUSB Type-CとmicroUSBなどさまざまな端子やケーブルに対応しているが、microUSBの電流は2A以上流すのが難しい一方で、USB Type-Cなら3Aまで対応できる。
このため、Quick Charge 3.0かつUSB Type-Aの充電器は18W(9V/2A)あたりが最大になるが、Quick Charge 3.0かつUSB Type-Cなら24W(3.6~6.5V/3A、6.5~9V/2.7A、9~12V/2A)といったより多くの電力を供給できる。ただし、現時点でQuick Charge 3.0かつUSB Type-Cの充電器はまだ少ない。
Quick Charge 3.0は今後USB Type-Cの普及が進むにつれて真価を発揮する規格といっていいだろう。
なお、Quick Charge 3.0とQuick Charge 2.0の対応充電器と対応スマホは互換性がある。もしQuick Charge 2.0対応の充電器を持っていて、USB Type-CかつQuick Charge 3.0のスマホを充電したい場合は、microUSB端子をUSB Type-Cに変換するアダプターを購入するのも手だ。充電時速度はQuick Charge 2.0相当となるが、それでも十分速く充電できる。ドコモやauのアダプターは安価で入手可能だ。
■USB PD (Power Delivery)
先日発表された「MacBook Pro」など、PCを中心に採用が進みつつある充電規格。USB PDに対応したノートPCと充電器をUSB Type-Cケーブルで繋ぐことで、最大100W(20V/5A)までの電力を供給できる。今のところ日本のスマホでの採用例はない。一般的なノートPCではUSB PDに対応した60W(20V/3A)や、27W(9V/3A)などの充電器を採用することが多い。
なお、最大100W(20V/5A)クラスの充電器が必要な場合は“USB PD対応のUSB Type-Cケーブル”が必要となる。具体的な例としては、15インチ MacBook Proを同社の87W充電器で充電する際に必要だ。今後、高性能なUSB PD対応ノートPCを購入する際は気をつけたい。