変わらないことの重要性
最初に登場した地味な新製品、iPadの説明を見ながら、新製品になっても、これだけ頑なに変わらない部分を多く残すことの意味を考えざるを得なかった。新しい第9世代のiPadのスペックを直近の第8世代と比べてみると、目立った変化は、プロセッサーがA12 BionicからA13 Bionicに変更され、ストレージサイズのラインナップが、それぞれ倍増していることと、フロントカメラがFaceTime HDから超広角に変更されているくらいで、後はむしろ驚くほど違いが少ない。本体サイズも、画面サイズも、リアカメラのスペックも、第1世代のApple Pencilのみに対応することも、相変わらずLightningコネクタであることも、みな同じだ。他の細かな違いを強いて挙げれば、第9世代は第8世代に比べてWi-Fiモデルで3g軽くなり、Cellular対応モデルでは逆に3g重くなっている。
このように、あえて変更を極力抑えている理由は明快だ。iPadは一私企業の製品ながら、すでにさまざまな分野で社会的なインフラの重要な構成要素となっているため、周辺機器やホルダーなどとの関係を考えると、変えたくても変えられない。iPadの場合には、もはや変わらずに継続することにこそ意義がある製品となって久しい。ある意味、真のプロ用の製品なのだ。すでにアップルには、ほとんど同じ仕様のものを作り続ける責任が生じているとも言えるが、それなりにおいしい部分でもあるだろう。
他の製品は、このiPadほどの社会的な制約は受けていないはずだが、iPad mini、Apple Watch、iPhoneといった製品ラインナップや製品名も含めて、かなり保守的な印象があることは否めない。目新しいものを求めるのではなく、定番製品の買い替え、あるいは新規購入を求めているユーザーが多いとアップルは踏んでいるのだろう。これはある意味、最先端企業というよりも「老舗」の態度に近いように感じられる。あえて冒険はする必要がないといったところだろうか。
凝縮された高性能を意味する「iPad mini」の系譜
そんな中で、やはり今回の発表の1つのハイライトと言えるのが、iPad miniだった。もちろん、カテゴリーとしては、これまでのiPad miniを継承する製品だが、デザインも中身も、これまでとは大きく異なっている。「標準iPad」とは対照的に、前任機と同じ部分を探すのが難しい。
まずひと目で分かるのがデザインの違い。これまでのiPad miniは、確かにiPadを小さくしたデザインだったのが、新しい第6世代のiPad miniは、むしろiPad Airを小さくしたようなデザインとなった。それでいて、仕様としては、画面サイズと解像度(ピクセル数)を除けば、iPad Airと同等以上のものを実現している。そもそもiPad Airは、iPadを薄く、軽く(エア)したというよりも、デザイン的な部分を含め、iPad Proを簡略化したような製品となっていた。いわば、「iPad Pro Air」と呼ぶにふさわしい製品と言える。その系統で行けば、今回のiPad miniは、やはり「iPad Pro Air mini」と呼んでもいいような製品に仕上がっている。
何よりも、プロセッサーがA15 Bionicとなり、少なくとも世代的には最新のiPhone 13シリーズと同じになっているのが大きい。Apple Pencilは、もちろん第2世代対応だし、コネクターはUSB-C、セルラーも5Gに対応している。Proを除けば、間違いなく現在最高峰のiPadと言える。それがこのサイズに凝縮されているのは、かなり魅力的だ。
このiPad miniは、横幅が134.8mmで、手の大きい人なら片手でも持てるサイズ。デザイン的にも大判のiPhoneに見えなくはない。電話としても使ってみたくなる。日本では昨今、いわゆる格安SIMの場合、データ専用と音声通話機能付きの基本料の差が、かなり小さくなっている。アップルでは、まったく想定していないと思われるが、このiPad miniに音声SIMを刺して通話できれば面白いと思ったのは私だけだろうか。
ついでに個人的なことながら、気がつけば筆者は、いつの間にかアップルの「mini」と付く製品の愛好者となっていた。初期のCore 2 Duoの外付け電源のタイプからMac miniを愛用し、Core i5の6コアモデルまで、たぶん5世代くらいは買い替えてきた。そしてiPhoneは去年からiPhone 12 miniを使っている。ところが、これまでiPad miniには手を出していなかった。この機会に、ちょっと検討してみようかと、本気で考え始めている。