新iPad Proはコスパ高い Macより快適かも

文●松村太郎 @taromatsumura

2018年11月05日 20時00分

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 アップルは10月30日に発表したタブレット型のiOSデバイス、iPad Proを2015年以来初めてフルモデルチェンジし、11月7日に発売します。11インチと12.9インチの2つのモデルが用意されていますが、このうち、大きなサイズの12.9インチモデルの先行レビューをお送りします。

 iPadは2010年に発表された9.7インチのタブレット型デバイス。2007年登場のiPhoneより先に企画されていたとも言われており、iPhoneとともにアップル飛躍の一翼を担う製品となりました。

 Macは四半期ごとに300~500万台程度のレンジで販売されていますが、iPadは1000万台前後で、新規ユーザーも多く、iPhoneとともにアップルのエコシステムに入ってきたり、既存iPhoneユーザーのより深いロイヤルティを獲得する上で重要な戦略的製品となっています。

 iPadはこれまでタブレット型デバイスのカテゴリでトップでしたが、タブレットというカテゴリ自体は世界的に見て縮小傾向が続いていました。そこでアップルは発表イベントで、年間4300万台以上を売り上げるiPadを「世界で最も販売台数の多いノートブック型コンピュータ」とカテゴリチェンジをした上で、最大勢力であることをアピールしました。

 実際にiPad Proに触れてみると、このカテゴリチェンジの宣言の意味を、深く知ることができるようになります。

●少し懐かしいデザインに驚きの薄さ

 先述の通り、iPad Proは2015年の登場以来初めての大きなデザイン変更がありました。ホームボタンが廃止され、iPhone XRと同じように縁まで敷き詰めた液晶ディスプレー「Liquid Retinaディスプレー」が採用されたこともニュースですが、それだけではありません。

 これまで背面に向けて弧を描いていたサイドのデザインは直線となり、ちょうどiPhone SEのようなイメージになりました。しかしこれは、もう少しふりかえってみると、2010年に発売された初代iPadのような雰囲気すらあります

 実際に並べて比べると、側面で直線になっている部分の厚みは、初代と最新のiPadで同じ程度でした。しかし初代iPadは、画面側に斜めにカットした立ち上がりの部分があり、背面は緩やかな膨らみ、その分iPad Proよりもだいぶ分厚くなっています。

 最新のiPad Proは5.9mmで、2017年モデルよりさらに1mm薄くなりました。角張った印象を受けますが、実際に指で触れてみると微細に角が落とされ、滑らかさすら感じます。

 しかも今回のiPad Proに用いられたのは、100%リサイクルされたアルミニウム。アップルによると、リサイクルされたアルミニウムを扱うことは、当然コストが増加し、高い品質や仕上げを保つことも難しくなるといいます。

 しかしアップルは「安いからではなく、正しいことをすべきだ」として、再生アルミニウムの使用に踏み切りました。

 アップルは年間2億台以上のiPhone、4000万台以上のiPadを製造し続けてきました。今のまま新たな資源を使い続けることが持続的でないと分かっていたでしょうし、なんらかのタイミングで方法を変える必要がありました。

 昨年アップルで環境・政策・社会イニシアティブを担当する副社長リサ・ジャクソン氏にインタビューした際は「クローズドサイクル」を目指すと語っていました。アップル製品を回収して再資源化することで新製品の資源をまかなっていこうというアイデアです。

 すでにiPhone XSシリーズ、iPhone XRからは、基盤の上のスズを100%リサイクルの資源に切り替えましたが、iPadやMacのボディの外装であるアルミニウムがリサイクル素材となったことには驚かされました。

 だからといって外見上何かが変わるわけではありません。アルミニウムのきめ細かさ、表面のなめらかさ、色味は、アップル製品のアイコンなっている金属の高い質感が、ただそこにあるだけでした。

●Apple Pencilはあるべき場所に

 iPad Proで重要なアクセサリと位置づけられていたのがApple Pencilです。登場から3年たった今も、その反応の良さ、圧力や傾きを検出する精度の高さには定評がありました。

 しかし筆者はiPad ProのApple Pencilを万年筆などと同じオレンジ色のペンケースにしまっていました。ペンシルなんだからペンケースに入れるのは当然という解釈もなくはないですが、iPad Proとしか使わないApple PencilをiPad Proと一緒にしておけないのはストレスでした。

 iPad Pro本体にも、Smart Keyboardケースにも収納場所が用意されていませんでした。昨年登場したレザースリーブにはApple Pencil用のケースも用意されていましたが、Smart Keyboardを装着した状態では若干窮屈……。

 結局、Apple Pencilの居場所は筆箱に落ち着いていました。しかし問題は使いたいときに電池がなくなっていることが多々あったということ。その際は、ユーザーを若干不安にさせる方法、すなわち「iPad ProのLightningポートにApple Pencilのお尻を差し込む」という形での充電が必要になります。

 収納場所と充電の問題、新型iPad Proではその両方を1つの方法で解決していました。Apple Pencilには1辺の平らな面が用意され、同じく平らになったiPad Proの右側面に、磁石できちっと装着できるようになったのです。

 双方に2つの磁石が備わっており、位置をきっちり合わせることでワイヤレス充電もしてくれるようになりました。本体にくっつけて持ち運ぶだけで、自動的にApple Pencilのバッテリーは100%になっているということです。

 ちなみに、Apple Pencilにはタッチセンサーが用意され、握っている手の人差し指でダブルタップすると、ツールの入れ替えなどができるようになりました。握ったままの状態で他の指には反応せず、タップした指だけを認識する仕組みもまた、実装に苦労した点だったそうです。

●コンピュータらしさをにじませるUSB-C

 iPadはiPhoneと同様に30ピンDock端子からLightning端子に変わり、iPhoneと同じ充電器やアクセサリが利用できるようになっていました。しかし2018年モデルのiPad Proは、今度はMacと同じUSB-C端子を搭載しました。

 筆者はデスクでMacBook Proを使っていますが、充電ケーブルの先にUSB-Cハブを装着し、そのハブを抜き差しすることで充電やキーボード、デジタルカメラのSDカードなどのアクセサリを一度に着脱できるようにしています。

 iPad ProにMacBook Proで使っているままのUSB-Cハブを差し込んでみると、充電が始まり、外部ディスプレーが点灯し、そしてハブにUSBで接続していた外付けキーボードまで使えるようになりました。

 つまり、iPad ProとMacBook Proで、ほぼ完全にアクセサリを共有化できたのです

 実はUSB-C端子を搭載したと聞いたとき、今までiPad向けに揃えてきたLightning端子に差し込むアクセサリ類、たとえばSDカードリーダーや外付けステレオマイク、HDMI出力アダプタなどが使えなくなり、新たにアクセサリを揃えなければならないのかと暗い気持ちが漂いました。

 しかし、Mac向けのUSB-Cハブが利用できて追加出費がいらなくなった点は、とてもありがたい対応でした。言い換えれば、MacとiPad Proをより併用しやすくなったということです。

●驚きの高性能 アプリによってはMacより快適

 Macの性能も最新チップによって高まっていますが、iPad Proはそれを凌駕する快適性を備える可能性が高そうです。

 A12X Bionicチップは、以前のiPad Proの2倍の処理性能を誇り、MacBook Pro 13インチモデルに迫る性能になりつつあります。しかもグラフィックスはディスクリートGPUを備えるモデルにも匹敵するとアップルは胸を張ります。

 そうした性能をシングルタスクでフル回転させれば、作業によってはより高いパフォーマンスを発揮する可能性が出てくるというものです。

 数日間試している中、Adobe Lightroom CCによる写真編集、Premiere Rush CCによる4Kビデオ編集については、もうMacBook ProではなくiPad Proだけですませたいと思えるほど快適な編集をすることができました。

 モバイル主体で作業環境を構築する場合、iPad Proだけで文書作成からクリエイティブ作業まで終わらせてしまうようなワークフローも、十分イメージできます。

 あるいは、同じく10月30日に発表された新型のMacBook Airでドキュメントを中心とした作業をして、それ以外の高度な作業をiPad Proにまかせるという組み合わせもあり得るかもしれません。

 そういうアイデアが浮かぶほど、iPad Proの性能に対するコストパフォーマンスは非常に高いといえます。

●カメラについてはもう一押し

 iPad Proには、背面に1200万画素のシングルカメラ、そして画面の上にはiPhone同様、TrueDepthカメラが備わっています。構成は同じですが、iPhone Xのようにノッチはなく、すべてが細くなった縁に収められていました。

 iPhoneと異なる点は、縦でも横でもFace IDの認証ができるようになった点です。

 iPhone XSやiPhone XRでは、端末を縦に構えた状態でしかFace IDの認証ができない仕組みになっていました。しかしiPad Proの場合、Smart Keyboard Folioを装着すると、TrueDepthカメラが右側になります。しかしそれでもきちんと認証ができました。

 ただ横長に構えて手で持っている場合、ちょうどカメラ部分を指で隠してしまうこともあります。その場合、画面には「カメラが隠されている」と表示が出て、TrueDepthカメラの部分に矢印を表示し、指をどけるよう促します。

 このあたりの細かい配慮には、感心させられます。

 ただ1つ残念なのが、背面のカメラの仕様です。iPhone XRに搭載されたような背面のカメラでのシングルカメラポートレートモードと、30fpsまでのビデオの拡張ダイナミックレンジは省かれていました。

 iPhoneの写真の出来映えを劇的に変えたスマートHDRはサポートしていたのですが、ポートレートモードに対応していないところを見ると、iPad Proには2018年モデルのiPhoneに採用された、高速・大型のセンサーが搭載されたわけではなさそうです。確かにこれまでもiPad ProのカメラはiPhoneほど最新の性能を盛りこんできたわけではありませんでしたが。

 ちなみにTrueDepthカメラを用いたセルフィポートレートにはもちろんフル対応しており、メッセージにおけるアニ文字やMemojiも利用可能でした。

●iPadのイメージが変わる
悩むのはサイズ選び

 iPad Proはタブレットというカテゴリを脱し、コンピュータのカテゴリとしての発展や他社製品、あるいは自社製品であるMacとの競合を展開していく、意欲的な製品でした。

 プロセッサの性能は、4Kビデオを3ストリーム同時に楽々流せるだけの処理速度と、3DもARも高いフレームレートで楽しめる、そんなパワフルさを備えます。同時に、最新のMacBook Airとともに、外装を100%リサイクルアルミニウムで実現する、これからのコンピュータのあるべき責任も示しました。

 確かに、iPadはmacOSともWindowsとも異なるiOSのみが動作します。これまでのコンピュータからすれば、新参者として不利になる点は、ユーザー側のアプリやデータの資産の問題となります。

 しかし、iPhoneの開発者のiPad向けアプリの提供や、2019年からMac向けアプリとiPad向けアプリを1つのコードで開発できるようになる仕組み、AdobeやAutodeskといった著名ソフトウェア企業のiPad向けアプリの充実などを見ると、iPad Proはそのうち、処理性能に対する価格の安さをウリとした、新しいポジションを獲得する予感すらさせます

 そこで、どのサイズを選ぶか、という問題が出てきます。正直なところ、実物を見れば見るほど、悩みが深くなっていきます。

 これまで9.7インチや10.5インチのiPadを使ってきたら、同じサイズで画面が拡大する11インチモデルは魅力的でしょう。ただし、Smart Keyboard Folioのキーボード部分は、これまでのサイズと変わらず、フルキーボードよりも小さなままとなります。

 一方12.9インチモデルは画面サイズをそのままにベゼルの縮小分だけ小さくコンパクトになりました。米国ではレターサイズと言いますが、日本ではA4サイズがおさまるカバンを持っていれば、そこにiPad Pro 12.9インチモデルをおさめられる、ということです。

 フォリオのキーボードもフルサイズをうたい、スケッチをしないとしても、より大きな画面でクリエイティブアプリをパワフルに動かすことができます。

 あとは、カバンのサイズや重さ、財布との兼ね合いです。

 もし動画視聴が多いという人は、12.9インチも検討してみるべきでしょう。よりサラウンドに包まれるようなオーディオ体験には、気をつけないと、とりつかれてしまうかもしれません。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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