●ロック解除の協力を
一般の人からすれば、クラウドにデータを座れず、モダンなコンピューティングを実現できるアップルの取り組みは評価できるかもしれません。しかしそのロック解除の意味を大きくしていることが、捜査関係者にとっては煙たい存在となっています。
2019年12月、フロリダ州の海軍基地で起きた銃撃事件について、その容疑者が持っていた2台のiPhoneがロックされた状態で、捜査当局が中身を見られない状況が発生しました。そこで、米国のウイリアム・バー司法長官は、アップルにロック解除の協力を求めています。
iPhoneのロック解除はご存じの通り、ユーザーの生体認証(顔もしくは指紋)を用いるか、ユーザーが設定したパスコードを入力しなければなりません。設定によっては、6桁の数字ではなく、普通のパスワードのようなアルファベットや数字、記号の組み合わせに変更することもできます。無闇に間違えると、一定時間iPhoneが操作を受け付けなくなりますし、10回間違えるとiPhone自体のデータを削除することもできます。
つまり、6桁の数字のパスコードであっても、総当たりで解除する方法は現実的ではありません。そこで捜査当局は、パスコードロックを回避する「バックドア」を用意するよう求めています。しかしアップルはこれを拒否しています。
アップルがiPhoneのバックドアを拒否したのはこれが初めてではありません。2015年12月に発生したサンバーナーディーノ銃乱射事件でも、FBIが犯人のiPhone 5cのロック解除を要求し、アップルがこれを拒否。別の方法でFBIがロック解除に成功したとの報道も出ました。
アップルのこの姿勢には、GoogleやFacebook、Snap(Snapchat運営会社)なども支持を表明しており、物理的なプライバシー保護は、テロ事件の捜査よりも重要であるとの考えへの理解が拡がりました。
しかし今回、米国のドナルド・トランプ大統領は、アップルが捜査に協力しない点について、Twitterで批判しています。トランプ政権が貿易問題など数多くのテーマでアップルを助けている上で、殺人者や薬物の売人などの暴力的な犯罪分子たちが使っている電話のロック解除を拒否している、いますぐ米国を助けるべきだ、とこんな具合です。
もちろん、これに対してアップルの返答はありませんが、基本的な姿勢として、アップルは今後も、iPhoneのロック解除のための方法を用意することはないでしょう。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
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