プラットフォーム側はより広範囲な操作の分析で対抗
いい方向、悪い方向の両方でさらなる使い方の進化は確実
物理タップマシンは、カメラでスマホの画面をとらえて外部から操作するので、アプリを一切改変することなくスマホの画面を押せる。ということはアプリやデータに異常がないので、不正行為を見分けることが難しい。そこでプラットフォーム側は入力装置そのものを見抜こうとするのではなく、端末・アカウント・ネットワーク・行動・最終的な成果をまたいだ総合的なリスク分析で対抗している。
物理タップマシンが人間の指のように画面に触れていたとしても、複数のアカウントが同時刻に同じ商品や動画、案件に反応し、同じ行動パターン・同じ成果を繰り返せば、全体として不自然さが浮かび上がるというわけだ。プラットフォーム側は「ボットのタップを見抜く」ことだけでなく、「不正な端末群・アカウント群が利益を生み出す流れそのものを止める」方向へと対策の範囲を広げている。
こうした動きは中国だけに限った話ではない。昨年12月にarXivへ投稿された、ロンドン大学UCLの研究チームによる論文「See-Control」は、カメラでスマホ画面を観察し、視覚言語モデルが次に取るべき行動を判断し、自由度の低いロボットアームが実際にタップやスワイプをするという「Embodied Smartphone Operation」という枠組みを提案している。
See-Controlは視覚言語モデルを用いて様々な画面状態を解釈しようとする研究である。そのため中国の製品とSee-Controlでは異なる技術ではあるが、「画面の内部情報を読み取るのではなく、人間と同じ視覚・物理的な操作経路でスマホを扱う」という方向性においては共通していると言えよう。
中国の開発者コミュニティ「CSDN」でも、物理タップマシンに開発者が興味を持っていた。この種の装置は完成品の「チート機器」としてだけでなく、電子工作の題材としても紹介され、「画面をどう認識するか」と「静電容量式タッチをどう再現するか」について解説の重点が置かれていた。この2つを実現することで、画面の状態に応じて動作を変える「物理スクリプト」へと発展させることもできる。ゲームの反復操作を想定した記述も見られ、純粋な技術的試作、実用的な自動化、そして規約違反につながりかねない用途が、同じコミュニティーの中に混在しているのが実情だ。
淘宝で売られるスマホ自動クリック装置は、実機テストやアクセシビリティ支援といった正当な用途から、動画再生数の水増しや配達案件の不正な先取りといった問題のある用途まで、幅広い目的で使われている。どうしても事件は話題になりがちなので、不正操作のニュースは今後更にでてくることだろう。「中国農村発日本のネットサービスでの不正操作! スマホを装着した物理タップマシンがズラリとならび農家の倉庫で自動化されていた!」、近未来にそんなニュースが出てくるかもしれない。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)、「移民時代の異国飯」(星海社新書)などを執筆。最新著作は「異国飯100倍お楽しみマニュアル ご近所で世界に出会う本」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)


























