アップルはオーディオメーカーになっちまえ「HomePod」レビュー (2/4)

文●四本淑三 編集●飯島恵里子/ASCII

2019年11月16日 12時00分

買うなら2台、ステレオペアでぜひ

 HomePodの見所は、設置場所の特性を内蔵マイクで拾い、低域を自動でチューニングする機能にある。だから家具の天板が大理石でなくても大丈夫。高域側についても、Siriのためのマイクロフォンアレイを流用して設置場所の特性を解析し、円形に並んだ7つのツイーターで指向性を制御する、というような説明がされている。お前はPAスピーカーか。

 つまりアップルのエンジニアが理想とする音のバランスが、場所に依らず再現できる。言い換えると、バランスが悪いのをユーザーのせいにできない。これは家庭用スピーカーのパラダイムチェンジだ。確かにどこに置いても低域の印象は大きく変わらないし、スピーカーを持ち上げてくるっと回すと、音の出方にもグラデーションがかかっている。


中央に内蔵された6つのマイクロフォンが、「空間認識機能」で部屋の形状を認識し、壁や天井の反響なども考慮に入れた立体音響を実現する

 そんな仕掛けを言わずとも驚くのは、出るわ出るわのディープな低音だ。可聴限界の下限近いところまで、かなりの音圧感を伴ったまま伸びているというのに、音量を上げても歪むOlasonic気配がない。よほどパワーに余裕があるか、ダイナミックレンジの調整をしているかのどちらかだろう。うっかり夜中に音量が上がってしまうと殺人事件に発展しかねないので、集合住宅では取扱に注意を要する。

 一方、中音域は、何かこう、いまいちズバッと飛んでこないところが、iPod Hi-Fiの頃と変わらない。普段使っているの「IA-BT7」と比べると、Radikoの音声はくぐもった印象で聞き取りにくい。でもスピーカーの振動板と正対しないスピーカーは、大体そんなものだ。

 そして2台ペアで使った場合は、円筒形スピーカーらしい自然な音場感の魅力が勝る。1台では乏しい中音域の解像感も、その音場感が補ってくれる。たかがワイヤレススピーカーに3万円か、という世評もあるが、どうせ買うならステレオペアで買っていただきたい。合計7万円程度でこんな仕掛けのスピーカーを作れるのはアップルくらいだろうし。

 とはいえ、やっぱ7万円か……。正直言って、そこは考えどころかなと思う。コストパフォーマンスに疑問はないが、それだけの私費を投じるからには全面的に賛意を持って迎えたい。では、どこに賛意を持てないのか。

iOS機器がなくても使えるのがミソ

 HomePodの商品企画のミソは、Siriで操作するApple Musicのためのネットワークプレイヤーで、単体で機能すること。つまり、あくまでもスマートスピーカーなのだ。初期設定にはiPhoneやiPadがなくてはならないが、これは組み立て家具に使うドライバのようなもので、済んでしまえば用がない。

 ところが私はSiriもApple Musicも、ほとんど使わなかった。AirPlayスピーカーとしてiPhoneやiPadから接続すれば、なんだって聞ける。映像と音声をシンクしてくれるので、動画の音ズレも感じない。試した中でダメだったのは、GarageBandだけだった。

 要するに、Siriの音声コマンドがApple Music以外のサービスやアプリに効かないだけ。だからApple Musicのユーザー以外には意味のない製品だとする論評には異議がある。HomePodはワイヤレススピーカーとして、断然優秀なのだから。そしてiPodの周辺機器だったiPod Hi-Fiと同様、HomePodも相変わらずiPhoneやiPadのための周辺機器なのだと思う。

 だから存在意義に疑問を持ってしまうのが、Siriなのだ。

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