松村太郎の「アップル時評」ニュース解説・戦略分析

アップル「Apple Card」本当のねらい (4/4)

文●松村太郎 @taromatsumura 編集● ASCII

2020年02月19日 09時00分

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●Apple Cardの存在理由

 アップルはApple Payを「世界標準的な決済手段」に持ち上げようとしています。

 決済額のわずかな部分がアップルに手数料として入ってくる仕組みで、その収入は少なくありません。前述の通り、年間150億回決済されており、例えば1回あたりの手数料が1セントでも、1億5000万ドルの手数料になるからです。

 そのため、アップルはすでに22カ国でApple Payを展開しており、決済回数が大幅に増やせる日本市場で、ハードウェア面から対応をしてきました。各国でも銀行やカード会社との提携を進めており、既存のカード利用社がすぐに手元のクレジットカードとiPhoneでApple Payを設定できるインターフェイスを準備しました。

 Apple Cardは、Apple Pay普及の第二段、と考えられます。というのも、Apple Cardは、iPhoneだけでクレジットカード口座が作れて、iPhoneですぐ使い始められる仕組み。時間的な意味でも、操作的な意味でも、非常にハードルが低いのです。

 加えてもう一つ低いハードルは、クレジットスコアです。Apple Cardは現在、米国の社会保障番号と免許証さえあれば、どんなクレジットスコアの人でもカードが発行されます。一般的なカードは信用度でカード発行の審査をしますが、Apple Cardは通常審査から落ちるスコアの人でも低い限度額設定でカードが発行されます。

 クレジットスコアは、クレジットカードやローンの口座を作り、信用枠を利用しなければ上がっていきません。にもかかわらず、低いスコアの人はクレジットカードが作れないという矛盾があります。大学のキャンパスでの勧誘活動に制限が加わったことも関係し、特に現在の米国の若い世代はクレジットカード離れが進んでいます。

 つまり、Apple Cardは現在クレジットカードを持っていない、作れない人のためのサービスであって、彼らをApple Payのエコシステムに引き込み、同時にクレジットスコアを付けてもらうことで将来的により多くの決済をする消費者に育てていこうというアイディアが透けて見えます。

 

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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