松村太郎の「アップル時評」ニュース解説・戦略分析

アップル「CarKey」と高級車メーカーの不都合な関係 (4/4)

文●松村太郎 編集● ASCII

2020年07月09日 09時00分

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●自動車メーカー、特に高級車とアップルの不都合な関係

 自動車メーカーにとっては、CarKeyやCarPlayなどで、スマホによる「体験の平準化」がもたらされます。これは大衆車にとっては体験を引き上げる非常にありがたい取り組みですが、高級車にとっては複雑な存在と言えるかもしれません。

 たとえばメルセデスは2010年代前半から、UWBを使った自動車キーを実現していて、NFCベースのCarKeyより既によっぽど賢いんですね。カギが複数あったら、使っているカギに合わせてシートポジションを調節してくれますし、カギが車内にあるときには外側のドアノブのセンサーから施錠できないようにして、カギの閉じ込みも防いでくれます。

 CarKeyは今後NFCベースからUWBベースへと移行していくことになりますが、せっかく高級車メーカーがいち早く実現していた「クルマのカギの未来」は、iPhoneやApple Watchを通じて大衆車にも入っていくことになります。

 CarKeyによるデジタルキーの広がりは、もちろん自動車の文化、技術、体験という広い視点で見れば、歓迎すべきテクノロジーと言えます。しかし高級車メーカーとしては差別化のため、さらに先行く体験を先取りして実装していかなければならない……ということになります。

 この点、BMWはなんとなくアップルの軍門に降った諦め感がありますが、BMWは米国ではドライバーズカーとして一番人気のブランドということもあり、対応したほうが顧客には喜ばれます。技術開発とマーケティングを天秤にかけた判断でしょうし、恐らく人気の機能になることから、デジタルキーの普及を加速するきっかけにもなりそうです。

 アウディは純正ナビに早くからグーグルのマップを採用するなど、うまくグーグルを活用しようとしている感じです。

 一方でメルセデスは、独自の音声アシスタントMBUXを採用し、アップル・グーグルにはできない独自の価値を作り出そうと躍起です。音声アシスタントでエアコンの操作などができるのは便利そうだなと思いますが、メルセデスではSクラスやEクラスだけでなくAクラスからMBUXを搭載し、Techに敏感な若年層の取り込みに活用しています。

 こうした自動車技術のTech寄り視点については、引き続きフォローしていきたいと思います。

 

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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