筆者個人が一番遊べたのは「シネマティックモード」
ところで、ごく個人的な感想で買い換えるかどうか評価のポイントだと感じたのはシネマティックモードだ。このモードは使いこなしが必要で、手軽に使うことはできるものの目的意識がないとつまらないと感じるかも知れない。
しかしツボにハマれば「おもしろい!」と素直に興味を持てる撮影モードだ。シネマティックモードを乱暴に紹介するならば、ポートレイトモードで各コマを撮影する毎秒30フレームの映画撮影的な表現を行う動画撮影モードだ。解像度は1080Pで、カメラ設定によらず必ずHDR撮影モードになる。
このモードの面白さはレンズ描写で遊べることだ。
iPhoneのポートレイトモードは演算処理により、ボケ味を重視したアップル設計の仮想レンズの特性をシミュレートしている。動画の場合、照明環境の揺らぎや被写体の動き、カメラ自身のパンや動きで光の環境が変化し、それに伴ってレンズを通じた描写が変化する。
映画撮影ではシネレンズと呼ばれる映画用の交換レンズが使われるが、シネレンズはそうした光の具合が変化するごとに変わる描写を楽しむように設計されている。
交換レンズ式カメラ好きなら共感してくれる方もいるかも知れないが、レンズは必ずしも解像度やコントラストでは評価できない。スマートフォンのカメラには物理的な絞りはないが、絞りの変化やフォーカス位置による違い、光環境の変化による違いで様々に絵柄が変化する様子をファインダーを通して感じながらシャッターを押す。
シネマティックモードは、そんなレンズ描写の変化の様子を動画として収めることができるモードだ。もちろん、それは演算で求めたもので、被写体との距離計測が正確にできていない場合などもあるため、必ずしも完璧ではない。
しかし、動画で描写の変化が描かれる様子はとても美しく、自撮りでもちょっとした旅行先の撮影でもシネマティックモードをデフォルトにしたいほど楽しめた。
弊害としてはピントの合う範囲が狭いため、真横に並んで歩きながらセルフィーで動画撮影してみると、撮影者本人以外はボケてしか映らないのだが、それも後からレンズの口径比を変えてしまえば問題ない。
確かに編集作業や撮影時に仕上がりを意識しながら撮る必要はあるのだが、それも含めて楽しみながらコンテンツ作りができる。
なおアップルのデモ映像にあるように、フォーカスを合わせる被写体の認識、切り替えは機械学習で鍛えたアップルのカメラアプリが担うが、手動でもフォーカスする被写体を変えられる。撮影しながら切り替えることもできれば、後編集で切り替えることもでき、人物とは別の認識できない被写体でも、タップすれば形状を記憶して追尾してくれる。
ただしあと編集の場合、被写界深度に入っていない(すなわち元々フォーカスがあっていない)場合は、それ以上にピントは合わない点は少し注意が必要だ。いずれにしろ、後からでもフォーカスの遷移や仮想レンズの明るさ(被写界深度の深さ)は変えられる。
もし筆者がiPhone 12世代の端末を持つカメラ好きユーザーだったなら、静止画カメラの違いだけでは買い替えを検討することはなかっただろう。しかしiPhone 11世代からなら買い替えの検討に値する。シネマティックモードで遊びたいからだ。