グーグルが力を入れるPixelスマホの価値を変えた「プロダクトインクルージョン」とは? (1/4)

文●山本 敦 編集●飯島恵里子/ASCII

2020年10月09日 09時00分

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本文で紹介する動画「Integrating Inclusion: Google Camera」より

 グーグルには人種や性別、障がいの有無、あるいは文化的な背景などが異なる人々が製品を手にしたときに、誰もが快適に感じるユーザー体験(UX)を実現するためのプロジェクトに携わるエキスパート集団がいる。アニー・ジーン=バプティステ氏が率いるプロダクトインクルージョンチームだ。

すべての人が使いやすいPixelを実現するために不可欠な「プロダクトインクルージョン」

 “インクルージョン”とは物事の多様性を受け入れること。これをいわゆる“ものづくり”に当てはめるのならば、そのプロセスを包括的な視点で見ながら「みんなが使いやすいもの」を作ることを意味する。グーグルはいま全社員がインクルージョンの意識を共有しつつ、プロダクトやサービスを開発するための仕組みを整えようとしている。

 今回はバプティステ氏へのオンラインインタビューにより、同社のプロダクトインクルージョンへの取り組みがGoogle PixelシリーズのスマートフォンやGoogleアシスタントのどこに活きているのかなど、詳しく聞くことができた。

米グーグル プロダクトインクルージョンチームのリーダーであるAnnie Jean-Baptiste氏にインタビューした

 最初にグーグルが考えるプロダクトインクルージョンとはどのようなものかを知るために、同社が製作したこちらのビデオを見てもらいたい。

Google Pixelシリーズのカメラに組み込まれたプロダクトインクルージョンの視点

 舞台は和やかな雰囲気が漂うホームパーティ。ふたりの男性が仲良さげに肩を組んでポートレートのフレームに収まろうとしている。片方の男性は褐色の肌、もう片方の男性の肌は白い。女性の友人がスマホのカメラを構えてシャッターを切ろうとすると、どうやら片方の男性が実際よりも暗めに写ってしまうようだ。男性は「おかしいね。良いセンサーを積んでいる僕のカメラで撮ってみたら?」と自分のスマホを友人に手渡すのだが……。

 この動画はGoogle Pixel 4シリーズのスマホが、プロダクトインクルージョンの視点を採り入れて、初めて搭載した自動画質調整機能を紹介するものでもある。動画に登場するグーグルのエンジニアは、肌色の違うあらゆるユーザーが納得できるポートレートが撮れるように、カメラの近接センサーのチューニングを丁寧に追い込んできたエピソードを振り返っている。

 最近では特殊な美肌効果を加えた“SNS映え”するポートレートが撮れることを売り文句に掲げるスマホが増えている。だが、もしもプロダクトインクルージョンの視点がそこに欠けていると、そのスマホのカメラはユーザーの肌色に対して、色合いや質感を一律に加工してしまうだろう。ややもすればユーザーにとってホワイトウォッシュといえるような、期待外れの結果をもたらすことになる。

 グーグルではあらゆる「人と人の違い」を意識しながらプロダクトインクルージョンに関わるノウハウを蓄積してきた。その視点は人種に性別、年齢に限らず、例えば人が持つ能力や受けてきた教育、文化的な背景、生活に使う言語、宗教的信条や社会経済的地位、あるいは性的指向に技術知識、そして左利き・右利きの“違い”も含めて考え得るすべての多様性にまで広く向けられている。チームリーダーのバプティステ氏は10年前にグーグルに入社し、グローバルビジネス部門に配属された後、ダイバーシティ&インクルージョンチームを経て現職に就いた。

 プロダクトインクルージョンチームには専任として携わるメンバーのほか、約2000人の社員が「インクルージョンチャンピオン」として、各自の担当業務の傍らでプロダクトインクルージョンの取り組みに参加している。

「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにする」という、グーグルが掲げるコーポレートミッションからプロダクトインクルージョンの挑戦が始まった

 グーグルには社員が勤務時間のうち約20%を通常業務以外のことに費やしてもよいという「20%ルール」と呼ばれるユニークなシステムがある。バプティステ氏は「20%ルールを活かして世界中から多くのGoogler(グーグルの仲間)たちがチームに参加しています」と笑顔を浮かべる。プロダクトインクルージョンの質を高めるためには多様な視点を持つ仲間の協力が欠かせない。

 プロダクトインクルージョンチームのヘッドクオーターは米カリフォルニア州のグーグル本社にあるが、先述のインクルージョンチャンピオンは世界各地域のグーグルの現地法人のスタッフだ。日本を含むAPAC(アジア太平洋地域)のインクルージョンチャンピオンは全メンバーの約1/4を占めるそうだ。

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