●実は機能と用途を制限するインターフェイスで、あざやかに実現されたApple Cash
Apple Cashはもともと、Apple Payを個人間送金に対応させる仕組みとして登場しました。VenmoやSquare Cashのように、銀行口座から手数料無料でApple Cashに入金し、iMessageの相手に手軽に送金できる仕組みです。
しかし筆者も米国でApple Cashを使っていますが、これを「新しい金融サービス」や「フィンテック」と評価することはできません。
Apple Cashのバックエンドは、米国の銀行の当座預金口座(チェッキングアカウント)と、それに紐づいたデビットカードです。これらは何十年も変わらず利用されている銀行のサービスで、なんの新規性もありません。
つまり、Apple Cashの個人間送金は言うなれば同じ銀行の口座間の送金をしているようなものですし、Apple Cashへの入出金も自分の当座預金口座とApple Cashの当座預金口座の間の送金です。ちなみに米国でチェッキングアカウント同士の送金には手数料がかかりません。そして店舗での利用はデビットカードによる決済ということになります。
Apple Cashは確かに新しい金融サービスに見えますが、実装は既存の銀行の仕組みに機能と使い方を制限する「インターフェイス」をつけたに過ぎないのです。
アイデアとしては、KDDIが三菱UFJ銀行とともにケータイ向けの銀行サービスを作った「じぶん銀行」みたいなものですが、ケータイで銀行のフルサービスを実現していたじぶん銀行とは異なり、Apple Cashでは貯蓄をしたり、投資信託を買ったり、住宅ローンを組むことはできないのです。