T教授の「戦略的衝動買い」

“嫌われない未来”にフォーカスしたスマートグラス「Even G2」を衝動買いしたものの…… (2/2)

文●T教授、撮影● T教授、編集● ASCII

2026年05月16日 12時00分

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「嫌われない」ことを優先した結果、「カメラはない」

 そして、この「カメラ無し」がEven G2最大の個性でもある。すでにスマートグラス市場では、性能競争より忖度とも思える「嫌われない設計競争」が始まっているのだ。

 なぜスマホ撮影は許容され、顔に付けたカメラは警戒されるのか。スマホは「構える」「レンズが見える」「撮影動作がわかる」。しかしスマートグラスは視線だけで撮っているように見える。つまり周囲からすると「撮られているかわからない不透明さ」が不安なのだ。撮影の存在を周囲に見せるためにLEDが点滅する商品が多いのはそのためだろう。

 Google Glass時代には「Glasshole」という俗語まで生まれ、バーや映画館で禁止される騒ぎになった。技術的失敗というより、社会UXの失敗だったのである。

 一方のEven G2は、通知、翻訳、ナビ、会話支援に特化し、「常用される普通の眼鏡」を目指している。高機能より先に嫌われないことを優先した設計思想なのだ。これは昔、日本のスマホでシャッター音が強制された流れともどこか似ている。

 実際、ドラレコや監視カメラには社会的許容があるのに、個人のグラスカメラだけ嫌われやすい。そこには「公共利益」なのか「私的興味」なのかという、撮影意図への心理差が存在する。

 とはいえ、筆者のようなお目溢し文化が好きな人間からすると、少々窮屈な時代にも感じる。映画館や美術館で普通の眼鏡とスマートグラスを瞬時に見分ける時代など、もはやSFの入口だ。赤いフレームを義務化……は冗談だが、案外と未来はそちら方向へ進むのかもしれない。

 Even G2はスマホアプリ側の完成度も高い。Rokidより機能は少ないが、その分UIは落ち着いており、「大人のガジェット感」が強い。またSDK公開により独自アプリ文化も育ち始めており、開発者コミュニティの盛り上がりも今後楽しみな部分だ。

スマートAIグラス
スマートAIグラス

正統派のEven G2と楽しそうなRokidの違いはアプリにも見られる

度付きレンジについては海外製造で時間もかかる

 さらにスマートグラス最大の難所である、度付きレンズ問題も興味深い。Rokidがアドオン方式なのに対し、Even G2は本体レンズそのものを交換する。そのため仕上がりは極めて自然だが、海外製造となるため価格も時間もかかる。現在、日本ではJUN GINZAが中心的窓口になっている。

 興味深いのはEven G2自身が「見えづらさ」に対してかなり丁寧なガイドを返してくることだ。単純に「度付きレンズを作れ」と言うのではなく、視線角度、鼻パッド位置、明るさ調整などの装着チューニングを先に提案する。このあたりは、まだ発展途上にあるスマートグラス市場らしい試行錯誤の面白さを感じる部分でもある。

スマートAIグラス

Even G2本体を購入後にレンズ交換をする場合はしばらく預けることになる

 Even G2は単なる通知表示デバイスに留まらず、サードパーティ製アプリも増え始めている。中でも筆者が思わず笑ってしまったのは、Stockfishと対戦できるチェスアプリ。未来のスマートグラスで将棋やチェスを指す世界は、かつてSF映画で見た「未来の日常」そのものである。ただし歩きながらのチェスは極めて危険だ。

スマートAIグラス

Even G2用チェスアプリも登場

 筆者がEven G2を気に入った理由の一つは、この「未来感の方向性」だ。サイバーパンク的にすべてを派手にするのではなく、どこか1960~70年代の工業デザインにも通じるクラシック感がある。外部に対しては威圧感は無く、当事者も長時間掛けていても疲れにくい。

スマートAIグラス

未来感とレトロ感が混在するEven G2

 そして最後に両者を並べてみると、Even G2とRokidの思想差は実にわかりやすい。Even G2は「普通の眼鏡に未来を忍ばせる方向」。一方Rokidは「未来ガジェットを日常へ降ろす方向」だ。どちらが正しいという話ではなく、2026年現在のスマートグラス市場は、まさにこの2つの思想がせめぎ合っている過渡期なのだろう。

スマートAIグラス

Even G2とRokidの思想の違いはハッキリしている

同系列のスマートAIグラス「Rokid」も衝動買い
詳しくはまたの機会で

 実は筆者、Even G2を衝動買いしてから10日後、都内で開催されたRokid体験イベントに参加してしまった。そして……嫌な予感が当たり、Rokidフルセットをその場で衝動買いしてしまったのである。

 Rokidは2代目のEven G2と真正面から競合する最新スマートAIグラスだが、こちらは高解像度カメラを搭載し、静止画も動画も自由自在に撮影できる。AI表示を重ねた“いかにも未来”な画も簡単に作れてしまう。

 昭和から令和まで、カメラという存在は常に議論を呼んできた。しかし今後のスマートグラス市場は、性能だけではなく、社会にどう溶け込むかも重要な課題のひとつになるだろう。

 ミーハーな筆者の気持ちは現在、少しRokid側へ傾きつつある。だが、それでもEven G2には独特の品格がある。スマートグラス第一世代の理想形は、「超高性能」だけではなく、「普通に掛け続けられる」ことなのかもしれない。いや、筆者はやっぱり自分の満足度が最優先だ。Rokidについては、また近いうちに本連載でご紹介したい。

 
T教授

今回の衝動買い

・アイテム:Even G2 A(丸型・グリーン)、Even R1(US11号)
・購入:ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba
・価格:9万9800円、4万1800円

T教授

 日本IBMでThinkPadのブランド戦略や製品企画を担当。国立大芸術文化学部教授に転職するも1年で迷走。現在はパートタイマーで、熱中小学校 用務員。「他力創発」をエンジンとする「Thinking Power Project」の商品企画員であり、衝動買いの達人。

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